| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-166  (Poster presentation)

窒素・酸素安定同位体比を用いた落葉広葉樹林の土壌水硝酸態窒素の解析
Stable isotope analysis of soil solution nitrate in a deciduous broadleaf forest

*藤巻玲路(島根大学), 清本芽生(島根大学), 福島慶太郎(京都大学), 大西雄二(京都大学), 木庭啓介(京都大学)
*Reiji FUJIMAKI(Shimane Univ.), Mei KIYOMOTO(Shimane Univ.), Keitaro FUKUSHIMA(Kyoto Univ.), Yuji ONISHI(Kyoto Univ.), Keisuke KOBA(Kyoto Univ.)

森林への窒素沈着量が増大してきており、森林の窒素保持を規定する土壌窒素動態の機構について関心が高まってきている。山陰地方では冬季に窒素沈着量が増大するが、山陰積雪地における窒素沈着の土壌窒素動態への寄与はよく分かっていない。本研究は鳥取県江府町の冷温帯落葉広葉樹林にて土壌水NO3の同位体比解析を行い、土壌窒素動態を考察した。土壌深30cmと100cmの土壌水および降水・積雪を採取し、無機態窒素濃度、δ15NNO3およびδ18ONO3を分析した。また、近隣に下層植生のササを除去管理した場所があり、そこでも同様に土壌水を採取して分析した。降水や積雪のδ18ONO3は60〜80‰である一方、土壌水のδ18ONO3は0〜30‰程度と、降水に比べて小さな値となった。季節的な変動として、30cm深の土壌水NO3濃度は春と秋に特に大きく増大するが、春の土壌水δ18ONO3はやや大きな値となり、春の土壌水に含まれるNO3にはある程度融雪が寄与していることが示唆される。土壌水δ18ONO3は夏から秋にかけて低下していることから、秋の土壌水NO3濃度上昇は土壌の硝酸化成が夏から秋にかけて活発であることによると考えられた。土壌水NO3濃度とδ15NNO3との関係には負の相関関係が認められ、脱窒によるNO3濃度の消費とそれに伴うδ15NNO3の上昇が生じていることが考えられた。また、δ15NNO3の値は夏に大きく、夏には硝酸化成と脱窒による消費の双方が大きくNO3濃度がやや低下することが考えられた。ササを除去した試験区では、土壌水NO3濃度は低く推移し、δ15NNO3の季節変化やNO3濃度との相関は不明瞭であった。ササを除去する管理を行った場合、硝酸化成や脱窒といった土壌の窒素動態の速度が抑制されることが考えられる。


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