| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-192  (Poster presentation)

殻標本を用いた尖閣諸島産陸貝の分子系統解析
Molecular phylogeny of land snail from the Senkaku Group using shell specimens

*長太伸章, 亀田勇一, 長谷川和範(国立科学博物館)
*Nobuaki NAGATA, Yuichi KAMEDA, Kazunori HASEGAWA(Natl. Mus. Nat. Sci.)

博物館や大学などにはこれまでの研究で得られた様々な時代の膨大な標本が収蔵されており、これらのDNA解析が可能になれば生物多様性の理解に大きく貢献すると期待される。陸産貝類(陸貝)は移動性に乏しく地域分化が大きいため、生態や進化、生物地理などの様々な研究でDNA解析が活発に行われてきた。また、絶滅危惧種も多く含まれており、保全遺伝の観点からもDNA解析が行われている。一般的に陸貝のDNA解析は腹足などの筋肉組織を使って行われてきた。しかし博物館等の陸貝の収蔵標本の大部分は軟体部を除去(肉抜き)して殻のみが乾燥標本として保管されており、DNA解析に適した筋肉組織などの軟体部がエタノール液浸等で保管されていることはほとんどない。そのため、陸貝のDNA解析では新規個体を捕獲する必要があり、新規に入手できないあるいは入手しにくい種や個体群などはDNA解析を行うことができなかった。近年では殻の中に含まれるDNAを解析する方法が提案されているが、殻標本の破壊を伴うため収蔵標本を対象に解析することは難しい。そこで我々は肉抜きの失敗などで殻内部に残存している軟体部組織に着目し、陸貝の収蔵標本からのDNA解析を試みた。対象として1970年代以降新規標本が得られていない尖閣諸島固有の陸貝タダマイマイを用いた。その結果、殻の形質に損傷を与えることなくDNAを得ることに成功し、ミトコンドリアと核の塩基配列からタダマイマイの分子系統関係を明らかにすることができた。以上から陸貝の殻標本からも標本によっては非破壊でのDNA解析が可能であり、収蔵標本を活用することで現在では入手できない絶滅種や絶滅危惧種を含む陸貝のDNA解析が可能になると期待される。


日本生態学会