| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-199  (Poster presentation)

アリがコロニー特異的な組成を持つ体表炭化水素を得るメカニズムの研究
Study of the mechanism by which ants obtain cuticular hydrocarbons with a colony-specific composition

*植松潤平(鹿児島大学), 辻和希(琉球大学)
*Jumpei UEMATSU(Kagoshima Univ), Kazuki TSUJI(Ryukyus Univ.)

社会性昆虫のアリは一般にコロニーを認識し、働きアリは同種の他巣個体に対して攻撃などの排他的行動、いわゆる巣仲間識別行動をとることが知られる。発表者のこれまでの研究から、働きアリは他巣個体に対する識別行動を自巣からの距離に応じて変化させること、そして、そのような行動がアリ群集の多種共存を促進させうることがわかった。このことから、アリの巣仲間識別は生物多様性において重要な役割を果たしていることが窺えるが、巣仲間識別のメカニズムについては未解明な部分が多い。
アリは巣仲間識別において体表に存在する炭化水素類(Cuticular hydrocarbons; 以下、CHC)を利用していることが知られる。CHCはコロニーごとに特異的な成分組成比で構成されており、このCHCがアリの巣仲間識別シグナルとして機能していることがこれまでの多くの研究で明らかにされている。しかし、そのようなコロニー特異的な形質をアリが如何にして獲得するかは未解明である。現在、アリがコロニー特異的なCHCを獲得する経路について、体内で生合成され、それは両親からの遺伝が影響するとする説と、環境から獲得されるという説を両極に議論が入り混じっている。この最大の原因は、ほとんどのアリ種で室内交配実験が困難なことがある。そこで発表者は、例外的に短期間で室内累代飼育が可能であるトゲオオハリアリを用いてコロニー単位の交配実験を行い、アリのコロニー特異的CHC獲得に対する遺伝的影響と環境的影響を評価することを試みた。本発表では、その現時点での成果および巣仲間識別に関する発表者のこれまでの研究成果を報告する。


日本生態学会