| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-205  (Poster presentation)

共生性エボシガイによる宿主ウニへのゴール形成 【B】
A semi-open gall on sea urchin test induced by a commensal stalked barnacle 【B】

*山守瑠奈, Makoto KATO(京都大学)
*Luna YAMAMORI, Makoto KATO(Kyoto University)

寄生性の生物の中には、宿主の組織を改変して「ゴール」を形成するものが見られる。例えば、寄生性線虫類やダニ類、菌類などは植物の葉にゴールを形成し、内部で植物組織の栄養素を吸収する生活を営むものが多く知られている。一方で、海洋ではゴール形成は稀である。
エボシガイ類(完胸上目: 鞘甲下綱: 節足動物門)は様々な基質に付着して生活する甲殻類で、その基質は潮間帯の岩や漂流物から生きた底生甲殻類、魚類、クラゲ類まで様々である。今回私たちは沖縄県北部のサンゴ礁において、有毒ウニのガンガゼモドキの殻上に生息し、記載されて以来一度も報告の無かったガンガゼタマエボシ Rugilepas pearsei を採集した。本種はウニの殻に柄部先端の爪状突起を差し込んで付着しており、ウニと同色を呈し、殻を完全に失っている。付着部周囲のウニの殻は半開口のゴール状に肥厚し、2~4 個体のタマエボシがその中で身を寄せ合っていた。また、ガンガゼモドキの殻には無毒で太い一次棘と有毒で細い二次棘が規則的に並ぶが、ゴールの周囲は棘の配列が改変され、一次棘が消失して高密度の有毒な二次棘に置き換わっていた。 ウニに付着するエボシガイ類のほとんどは棘に付着するが、殻に付着し、まして宿主の組織を改変する種は非常に稀である。ウニの殻を改変する生物は中生代の化石記録で複数報告されており、そのいくつかは橈脚類によるものと推測されている。現生の種では、大西洋の深海のウニから橈脚類によるゴール形成が知られているが、浅海のウニの殻にゴール形成を誘導するのは本種が現在唯一の例である。 本発表では、このガンガゼタマエボシによる宿主ウニの硬組織改変の様相と本種の進化的背景を、CT断面画像や分子系統解析の結果と共に報告し、タマエボシの行動や宿主との関係性を議論する。


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