| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-238  (Poster presentation)

断片化した草原における過去14年間で消失しやすい種の形質と環境要因
Traits and environmental factors leading to disappearance in fragmented grasslands over the past 14 years

*野田顕(東邦大学), 西廣淳(国立環境研究所)
*Akira NODA(Toho Univ.), Jun NISHIHIRO(NIES)

日本の草原は全国的に面積が減少し、草原の植物の種の消失が起きている。環境の変化による個体群の局所絶滅のメカニズムを明らかにすることは、草原植物の保全上重要である。本研究では、相互に特徴が異なる複数の草原が残存する千葉県北部の草原を対象に、個体群の局所絶滅に関係の深い環境要因と植物の形質を明らかにすることを目的とした。

2005年、2014年に植物相調査が行われている26箇所の草原で2019年に再調査を実施した。2005年から2019年、2014年から2019年の各期間における種の存続に対する環境条件と植物形質の影響を解析した。草刈りの有無と植物体サイズ(草丈)を説明変数としたモデル及び生育地に隣接する樹林の割合と種子散布様式を入れたモデルを作成した。草丈は文献から得られた形質値を用いた。種子散布様式は風散布、被食付着散布、アリ散布、自動散布、その他に分類した。

草丈の低い種は草刈りが放棄されている場所でより消失しやすく、反対に草丈の高い種は草刈りが行われている場所でより消失しやすいことが示唆された。種子散布では、アリ散布種は樹林に囲まれた生育地で存続し、宅地に囲まれた生育地で消失しやすいことが示唆された。また、その関係は2005年のデータを基準とした場合のほうがより明瞭に見られた。撹乱が光競争に強い大型の種を減らし、小型の種の存続に有利に働くことはこれまでの研究と一致する。樹林に囲まれた場所は散布者のアリが多く生育し、種子は生育地内全体に分散される。一方、宅地に囲まれた草原は土地改変前のアリと植物間の共生関係が崩れている可能性があるため、種子は親固体の近くに散布される。そのため、親個体の周辺が生育に不適になった場合、樹林に隣接する草原においてより多くの個体群が存続しやすいと考えられる。本研究の結果は、種の局所絶滅が集合規則に従って起きていることを示しており、保全対象種の選定や具体的な保全策の立案をする上で有用である。


日本生態学会