| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-242  (Poster presentation)

早池峰山塊におけるニホンジカの日周・季節移動パターン
Diurnal and seasonal migration pattern of Japanese sika deer on Mt. Hayachine.

*鈴木まほろ(岩手県立博物館)
*Mahoro SUZUKI(Iwate Prefectural Museum)

早池峰山塊(山頂標高1917m)は岩手県北上山地の中央に位置する山である。4種の山塊固有種を含む稀少な植物が多数生育し、日本列島の生物多様性保全上、非常に重要な地域である。ところが近年、周辺でニホンジカが急増し、2010年頃から山麓に定着、2018年までに山頂付近へも出没するようになった結果、ハイマツ帯の植物にも食痕が急増し、一部では裸地化が進行しており、高山生態系および稀少植物への影響が強く危惧されている。
早池峰山の生態系保全のための基礎情報として、自動撮影カメラを用いてニホンジカの行動調査を行った。標高550~800mの山麓には2018年11月から2年間8台のカメラを設置し、標高1550~1900mの亜高山帯上部には2019・2020年の6~10月に8台を設置した。
山麓に2年間設置したカメラではいずれも通年で多数のシカが撮影された。林道沿い標高550mではのべ3592頭が撮影され、うち雄は13%、雌は76%、当歳仔は2.8%であった。標高620mのスギ林ではのべ991頭、うち雄は8%、雌は72%、当歳仔は13%であった。繁殖期である秋季には雄の比率が上昇した。撮影された時間帯と移動方向には明らかに集中傾向が見られ、15~21時には下り方向、3~9時には上り方向へ多くの個体が移動していたことから、日周行動をとっているものと推測された。
一方、6~10月に亜高山帯上部に設置したカメラ8台のうちシカが撮影されたのは4台で、2019年にはのべ285頭(うち雄が61%)、2020年にはのべ183頭(うち雄が68%)、多くは7~8月、出没時刻は日没後から早朝に集中していた。当歳仔は1頭のみ撮影された。なおカモシカは2019年に34回、2020年に43回撮影された。
これらのことから、夏季に亜高山帯上部に上るシカは雄を中心とする一部の成体に限られ、夜間に山麓と上部を往復する日周行動をとっていると考えられる。


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