| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-244  (Poster presentation)

野生絶滅種コシガヤホシクサの野生復帰を目指した保全研究-成果、現状、課題
Project to return the extinct aquatic species Eriocaulon heleocharioides to the wild - current status and issues

*田中法生(国立科学博物館), 堀内勇寿(筑波大学), 上條隆志(筑波大学)
*Norio TANAKA(Natl. Mus. of Nat. Sci.), Yuju HORIUCHI(Univ. of Tsukuba), Takashi KAMIJO(Univ. of Tsukuba)

 生息域外保全の目的の1つは、域内への再導入個体群の保存にある。維管束植物の域外保全は、日本植物園協会が強力に推進しているが、再導入環境での適応度や好適条件の継続性など、域内への再導入後を想定した研究や対策は進んでいない。実際の再導入機会自体が限られている上に、継続的なモニタリングと域外保全へのフィードバックを伴う事例が少ないことも原因の1つと考えられる。その中で、野生絶滅種の野生復帰は、その再導入の動機が明確で、域外で得た生態特性の理解が域内での個体群動態の評価に直結するという点で、この問題に対する基盤的データを提供できる。ここでは、野生絶滅種コシガヤホシクサの野生復帰を目指した保全研究のこれまでの経過と今後の課題を示す。
 コシガヤホシクサ(ホシクサ科)は、沈水・湿生の両生の一年草で、記録のある2カ所の生育地のうち、1カ所(茨城県砂沼)の個体群のみが域外保全されている。2008年に砂沼の絶滅原因と推測される水位管理を絶滅前と同様に再変更した後、域外保全の基盤構築と野生復帰条件の検討を行ってきた。
 域外での栽培保全について、栽培環境、送粉・繁殖、種子保存・発芽の各条件について、野生復帰の成否を視野に入れて検討した。常習的自殖性であることから、送粉者のハエ類が活動する環境を作るとともに、高密度栽培による他家交配促進を行い、母系単位での系統管理が効果的であることが明らかになってきた。
 域内への野生復帰については、水位と好適土壌からの生存可能域が示された一方で、好適土壌の分布の変動が長期的な個体群維持の阻害要因となることが明らかになった。この数年は、水生生物による捕食が生存阻害の最大要因であるが、初期成長期の防除が生存率を高めることが明らかとなった。
 今後、域外実験で得られた種特性について、野生復帰地環境での動態予測を行い、持続的な環境基盤の設置を目指す。


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