| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-276  (Poster presentation)

日本海沿岸域に位置する北潟湖のヒシの分布変遷と塩分濃度との関係
Change of distribution of a freshwater macrophyte Trapa japonica and salinity over years in brackish Lake Kitagata, Japan

*石井潤(福井県里山里海湖研)
*Jun ISHII(Fukui Pref.)

 福井県の北潟湖は、日本海沿岸に位置し、時々海水の流入の影響を受ける汽水~淡水の湖である。北潟湖とその周辺地域では、2018年に北潟湖自然再生協議会が設置されて、自然再生の取り組みが開始された。本研究では、自然再生の具体的な計画立案のための基礎資料を提供することを目的として、北潟湖の水草(浮葉植物と沈水植物)の分布と環境条件の調査を行った。また、浮葉植物で淡水生の水草であるヒシの分布変遷と塩分濃度との関係について分析した。
 2017年8月に実施した湖内73地点での浮葉・沈水植物の分布調査では、水草は全く確認されなかった。福井県が2011年に行った調査で確認されていたヒシ群落も、同じ場所で確認されなかった。同年8~9月に、水草の生育に影響する環境要因として水深、透明度、底質、塩分濃度について調査した。その結果、水深は0.4~3.1 mであるのに対して透明度は0.3~2.5 mであり、水深に対して透明度が低くなる場所では光条件が制限要因となる可能性があることが示された。湖岸の底質は砂質で黒色~茶色の土壌の場所が多かったのに対して、沖合では泥質で黒色または灰色の土壌が多く、沖合の湖底付近において富栄養かつ貧酸素条件となっている可能性が示唆された。塩分濃度は、湖岸でも底層は4.5~8.4 PSUと高く、沖合では4.5~20.1 PSUでさらに高い値を示し、北潟湖で水草が確認されない主要因となっている可能性が考えられた。
 さらに空中写真の判読と現地調査の結果から、ヒシ群落は少なくとも1963~2002年までは広い範囲で分布していたが、その後縮小・消失したことが示唆された。福井県が毎年実施している水質調査のデータを分析した結果、北潟湖の塩分濃度は2010年ごろまでは比較的低い値で維持されていたがそれ以降は高い値を示し、ヒシ群落の増減のパターンと対応関係が見られた。また、現在汽水生の水草が確認できないのは、長期間にわたって淡水環境が続いていたことが一因である可能性が考えられた。


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