| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S06-1  (Presentation in Symposium)

DNA解析に基づくヒグマの個体群特性の解明
Population characteristics estimated based on DNA analysis in brown bears

*下鶴倫人(北海道大学)
*Michito SHIMOZURU(Hokkaido University)

野生動物の保護管理を行う上で、生息数や繁殖パラメターといった個体群特性を把握することは極めて重要である。知床半島はエゾヒグマ(Ursus arctos yesoensis)の高密度生息地であり、その個体数は550頭前後と推定されているが(間野, 2017)、推定値の確度が低いという問題があった。本研究では、知床半島全域よりDNA試料(体毛および糞など)を収集することにより、空間明示型標識再捕獲法とタグ・リカバリー法による新規個体数推定手法(詳細は次演者の深澤氏が発表する)に基づきヒグマ個体数を推定すること、および繁殖率や生存率といった繁殖パラメターを算出することを目的とした。体毛の収集は立木型ヘアトラップを用いて行った。半島全域に計63基のヘアトラップを設置し、2019年6月より10月末まで2週間に1度の頻度で体毛を収集した。得られたDNA試料を用いマイクロサテライト多型解析を実施した結果、計290頭の個体を識別した。また2019年に収集した糞試料や、有害駆除・狩猟により捕殺された個体の遺伝子解析を併用した結果、計351頭(メス202頭、オス149頭)を識別した。トレイルカメラや直接観察で得られた情報とDNAを用いた血縁解析で得た情報を総合すると、このうち114頭が5歳以上の成獣メスであることが確認され、産子数は1.79頭/腹、繁殖率は0.64頭/年と算出された。また、知床半島ルシャ地区において実施している長期間の個体追跡調査により子の生存率の算出を試みた。この結果、出生年(0〜1歳)および次年度(1〜2歳)の年間生存率は0.6〜0.7であったのに対し、2歳を過ぎると生存率が0.9以上まで上昇した。これらのことから、知床半島のヒグマ個体群は高い繁殖ポテンシャルを有していることが明らかになった。


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