| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S09-5  (Presentation in Symposium)

水産研究機関における海洋観測網:成果と今後の展開
Oceanographic observation network in fisheries research institutes: achievements and future development

*堀正和(水産研究・教育機構), 三田村啓理(京都大学フィールド研), 清水学(水産研究・教育機構), 市川忠史(水産研究・教育機構), 中神正康(水産研究・教育機構), 瀬藤聡(水産研究・教育機構)
*Masakazu HORI(NRIFR, FRA), Hiromichi MITAMURA(FSERC, Kyoto Univ), Manabu SHIMIZU(NRIFR, FRA), Tadafumi ICHIKAWA(NRIFR, FRA), Masayasu NAKAGAMI(NRIFR, FRA), Satoshi SETO(NRIFR, FRA)

 日本周辺海域は地球上で最も多くの海洋観測点が分布している海域の一つであり、その観測密度は米国・欧州沿岸や赤道海域と同等に高密度な観測領域を形成している。その中でも水産研究機関は沿岸域に多くの観測点を有し、その定点観測は100年以上の歴史がある。1960年以降は日本の沿岸海域をほぼ毎月カバーする観測体制が整備され、高度経済成長期に始まる海洋汚染等の環境把握が開始された。この観測網は現在まで維持されている。これらの観測から、東北太平洋岸では冬期水温が100年間で約2℃上昇傾向にあること、現在の瀬戸内海では1960~1990年代より冬期水温が1℃上昇していること、海水温変化に依存したブリやサワラの漁獲量変動などが解明されてきた。
 しかしながら、短期的かつ実用的な成果を望む昨今の社会情勢・研究動向下では、水産研究機関による海洋モニタリングも努力量不足に陥り、継続観測が困難になりつつある。その一方で、沿岸海洋環境との解析が必須となる沿岸魚類の資源管理を新たに開始するなど、気候変動に適応した水産業の推進が始まっている。その実現には精緻なモニタリング体制の再構築とその活用、特にモニタリングデータに基づく過去の検証から、未来の予測への転換が必要となる。最近では、水産庁が進めるスマート水産業の実現に向けたDXの推進とあわせて、漁業者自らが操業中に漁場環境を同時観測するシステム構築が始めている。操業中に観測した環境データを迅速に解析・配信するための仕組みを作り、同時に海洋環境・漁獲量(魚類現存量)・位置情報との統合データセットからなるビックデータを蓄積するデータサーバの構築を進めている。今後は、環境DNAを用いた定性な多様性情報・半定量的な漁獲対象種の資源量指標情報をデータセットに組み合わせ、海洋生物・海洋環境の持続的利用に向けた管理に資する総合的な海洋環境情報の構築を目指している


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