| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S15-2  (Presentation in Symposium)

草原の送粉者はどこから来るのか?周辺土地被覆の違いに基づく発生環境と活動圏の推定
Where did the grassland pollinator come from? The estimation of pollinators' mobilities and habitats based on the surrounding landcover difference

*辻本翔平(東邦大), 平塚優輝(東邦大), 野田顕(東邦大), 西廣淳(国立環境研)
*Shohei G TSUJIMOTO(Toho Univ.), Yuki HIRATSUKA(Toho Univ.), Akira NODA(Toho Univ.), Jun NISHIHIRO(NIES)

送粉者の減少が世界のさまざまな生態系で報告されており、その影響は、作物の収量など、産業や生活にも及んでいる。原因の一つにとして、人為的な土地被覆の改変が挙げられる。送粉者の保全のためには、餌資源を提供するハビタットだけでなく、繁殖地の環境、それらの連結性についても考慮する必要がある。
かつての関東の丘陵地には、草地、水田、樹林などが入り組む里山景観が広がっていた。しかし、1960年代の開発に伴い、そのような里山的景観が急速に変化した。しかし、現在でも台地上には草原が残存しており、草原性の絶滅危惧種の貴重な生育場所となっている。また草原の周辺は、樹林から宅地まで様々である。我々はこの景観のモザイク性を利用し、周辺環境の異なる草原間で送粉者相を比較することで、周辺環境の特徴や景観モザイク性が送粉者の組成や量に及ぼす影響を検討した。
調査は千葉県白井市に残存する22の草原で行った。2019年6-10月の期間に、2週間に1度の頻度ですべての草原を訪れ、調査草原内で開花している各植物種の花に訪れている訪花昆虫の個体数を種ごとに計数した。送粉者の個体数は花の開花量に大きく左右されるため、各草原における50×2mのベルト内の開花概数も記録した。草地周辺の景観要素をバッファ距離100、250、500、1000mごとに抽出し、各バッファ内に占める景観要素の割合を算出した。送粉者の分類群、バッファ範囲毎に、景観要素、開花花数を組み込んだモデル式に回帰を行い、最も説明力の高い空間範囲と景観要素を推定した。
結果は、分類群ごとに異なる空間範囲、景観要素が選択されていた。たとえば、ツチバチ科は1000m内の樹林の面積が、ヒメヒラタアブ属では100m内の宅地の面積が、それぞれ個体数の増加に影響していた。それらの結果に基づき、本発表では、送粉者が由来する環境や、誘因に影響する要因を議論することで、送粉サービスの向上につながる知見についても考察したい。


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