| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S15-3  (Presentation in Symposium)

花の微生物と送粉共生:農地での応用の可能性
Floral microbes and plant-pollinator mutualism: potential agricultural applications

*辻かおる(京大・生態研), 宮下直(東大・農), 深見理(スタンフォード大)
*Kaoru TSUJI(Kyoto Univ.), Tadashi MIYASHITA(The Univ. of Tokyo), Tadashi FUKAMI(Stanford Univ.)

花には細菌や酵母など多様な微生物がみられ、そのなかには植物や送粉者の病気を引き起こすものもいれば、花の形質を変えて植物と送粉者の共生関係を変化させるものもいる。このことは特にここ10年ほどの間の研究によって明らかにされてきた。その多くは農業とは直接関係のない植物を対象にしているが、花の微生物に関する生態学的知見は、作物生産の向上に応用できる可能性がある。例えば、花蜜で増殖する微生物では、蜜中の資源をめぐる種間競争が起きることが最近の研究により確かめられている。リンゴが感染する火傷病菌など蜜腺から侵入する病原菌の感染は、競争関係にある非病原性の細菌や酵母を農地に導入することで抑制できるかもしれない。花の微生物には、ミツバチやマルハナバチなどの送粉性昆虫の病原菌もおり、農作物や野生植物の花を介して伝播することが近年明らかになってきている。これらの感染も、競合関係にある微生物を花に導入することで抑えられるかもしれない。また、アブラムシなどの防除に用いられる寄生バチは花蜜を採餌するが、その採蜜行動や寿命は花蜜で増殖する酵母によって高まることが最近報告されている。酵母を広く導入すれば害虫防除の効率も上げられることも考えられる。さらには、花に微生物が入ると蜜の成分や匂いが変わり、花と送粉者の共生関係が強まったり弱まったりすることも、最近の研究によって分かってきている。共生を強める微生物を導入すれば果物の収量が増えることもあり得るだろう。本発表では、こういった基礎生態学的知見の応用の可能性について考察し、発表者らが取り組んでいるソバの花の微生物に注目した調査の展望も紹介したい。


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