| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


シンポジウム S16-2  (Presentation in Symposium)

IPBESアセスメントから見た生物多様性地域戦略
Local Biodiversity Strategies and Action Plans in the context of IPBES assessments.

*橋本禅(東京大学)
*Shizuka HASHIMOTO(Tokyo Univ.)

IPBESが2019年5月に公表した地球規模評価報告書では,地球規模で依然として生物多様性の損失が続いており,このままでは愛知目標はもとより,SDGsや生物多様性の2050年ビジョン、気候変動枠組条約パリ協定などの達成が危ぶまれること,また他方で,国際社会が迅速かつ協調的な努力ができれば,自然環境の保全や再生,持続的可能な利用と,世界的な社会目標を同時に達成できる可能性が残されていることも示された。IPBESのアセスメントは,空間スケールでは地球規模や国よりも大きな地域を対象としている。そのため,地球規模評価を含め,IPBESがこれまでに公表した評価報告で,生物多様性地域戦略が分析されたり生物多様性保全における役割が言及されることは極めて稀である。実際,生物多様性国家戦略については,ほぼ全てのIPBES報告書で分析ないしその役割が言及されているが,生物多様性地域戦略について明確な言及があったのはアジアオセアニア地域評価報告書のみ,それも一度だけである。しかしこれは必ずしも生物多様性保全において,生物多様性地域戦略や地方自治体レベルでの取組みが軽視されていることを示唆しているわけではない。実際,生物多様性条約の第8回締約国会議では都市や地方自治体の役割の重要性を認識し、生物多様性地域戦略の策定支援を奨励する決議も行われている。IPBESの地球規模評価報告書においても,持続可能性の向上を実現する変革には,部門横断的な思考とアプローチが求められるとし,ランドスケープ・アプローチや流域や沿岸域の統合的管理,都市計画などの役割がハイライトされている。これらはいずれも広域自治体や基礎自治体で取り組まれるべき事項である。これらを真に部門横断的なものとするには,生物多様性地域戦略のもとに諸計画や施策を統合し,相互のシナジーを高め,部門間のトレードオフを最小化する試みが不可欠である。


日本生態学会