| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W12-2  (Workshop)

スギの系統による森林生産の違いとその要因分析
Mechanisms underlying the genetic differences in forest productivity in Cryptomeria japonica plantations

*小野田雄介(京都大学), 田中一成(京都大学), 平岡裕一郎(森林総研・林木育種セ, 静岡県立農林環境大), 松下道也(森林総研・林木育種セ)
*Yusuke ONODA(Kyoto Univ.), Issei TANAKA(Kyoto Univ.), Yuichiro HIRAOKA(FFPRI. FTBC, Shizuoka Prof. Univ. Agri.), Michinari MATSUSHITA(FFPRI. FTBC)

 スギは日本で最も広い面積に植栽されている有用樹種であると共に、自然分布域が広く、遺伝的多様性も高く、生態学的にも重要な研究素材である。戦後の木材供給不足を補うために、1950年代より国家的事業として、全国から成長が良いスギが選抜され、その中から、特に優れたものを精英樹として、全国の植林地の苗供給や、更なる品種改良に用いられている。スギの精英樹の選抜には成長の良さなど複数の基準で行われてきているが、なぜ成長の良さに違いがあるのか、そのメカニズムは未解明な部分が多い。また森林では、常に隣接個体と競争・干渉するため、集団(森林)レベルでの成長の良し悪しは、単木での成長の良し悪しと必ずしも一致せず、集団レベルの生産性を決める要因は明らかではない。
 森林の生産性は、光の獲得量と光利用効率(生産量/光獲得量)の積で決まる。光利用効率は、個葉の光合成能力に加え、樹冠内での光の分配が重要である。光-光合成曲線が飽和型のため、樹冠上部で光を一気に獲得する樹形は、光合成に必要とする以上の光を吸収してしまい光利用効率が低い可能性がある。本研究は、スギ第一世代精英樹4 系統のクローンが、集団植栽されている個体間競争試験園で行った。20年生の各系統の地上部成長速度は、筑波1号>郷台1号>甘楽1号>揖斐3号の順であった。光の獲得率はどの系統でも90%以上であった。また個葉レベルの光合成能力に有意な差は見られなかった。一方、成長速度が低い揖斐3号は、葉を樹冠上部に集中させ、光を急激に吸収する傾向が強く、逆に筑波1号は樹冠が長く、光を分散させて吸収していた。これらは、樹形レベルでの光利用効率が森林の生産性に重要であることを示唆する。


日本生態学会