| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W16-4  (Workshop)

植物相から見た生物多様性配慮ゾーン(仙台地区)の植物多様性とその保全
Flora of the Biodiversity Consideration Zone, Sendai.

*黒沢高秀, 橋本心之介, 山ノ内崇志(福島大学)
*Takahide KUROSAWA, Shinnosuke HASHIMOTO, Takashi YAMANOUCHI(Fukushima University)

東日本大震災の津波被災地の残存林帯,湿地,砂地性植生の保全のために設けられた生物多様性配慮ゾーン(仙台地区)における植物の種多様性の現状を明らかにするために,2020年に植物相調査を行った。配慮ゾーン内からは166種類(165種1変種)の維管束植物が確認された.保護上重要な植物はセンダイハギ,イヌセンブリ,ナミキソウの3種類であった。帰化植物は46種類を確認し,このうち生態系被害防止外来種リスト掲載植物は18種類であった.海岸植生における悪影響が知られているハリエンジュ,イタチハギ,オオハマガヤが一部区域において著しく繁茂しており,当配慮ゾーンの植物多様性を維持していく上で,これらの種類の管理が重要と考えられる。海岸植物は配慮ゾーン内でコウボウムギ,ケカモノハシなど14種類,配慮ゾーンの海側に隣接する砂浜を含めると17種類が確認された。これらは全て,澤田ほか(2007)のハビタットカテゴリーにおける砂浜等を主要なハビタットとする種類に該当した。砂浜等をハビタットとする海岸植物は,仙台市の海岸部では震災前および直後に20種類が報告されていたが,その多くが震災後9年を経た現在も配慮ゾーン内およびその近傍に現存していることが確認された。一方で,仙台市の海岸部で震災前および直後に確認されていた種類のうち,海岸草原・低木林を主要ハビタットとするハマカキランとマルバトウキ,および塩湿地等をハビタットとするドロイ,オオクグなど9種類の植物は確認されなかった。植物の種多様性の観点からみると,現在の配慮ゾーンは,砂浜等の植物の生育地としては十分に機能しているが,海岸草原・低木林や塩湿地等の植物の生育地としての機能は限定的であると思われる。


日本生態学会