| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


自由集会 W17-3  (Workshop)

年輪解析から見えてきた縞枯れにおける常緑針葉樹の枯死パターン
Tree ring tells dieback patterns of subalpine conifer in wave regeneration

*谷口晃基(東京大学・農), 種子田春彦(東京大学・理), 安江恒(信州大学・山岳研), 福田健二(東京大学・農)
*Koki TANIGUCHI(Grad. Sch. Agri., Univ. Tokyo), Haruhiko TANEDA(Grad. Sch. Sci., Univ. Tokyo), Koh YASUE(MRI, Shinshu Univ.), Kenji FUKUDA(Grad. Sch. Agri., Univ. Tokyo)

縞枯れでは,枯死木帯が風下である高標高側に移動することが知られている.本研究では,年輪解析を通して枯死木帯における成木の成長の低下と枯死が起きる過程の詳細解明を目指した.北八ヶ岳の縞枯山の南西斜面に斜面の斜度が異なる2つの枯死木帯(サイト1とサイト2)において,その近くの林内,林縁部の生立木,枯死木帯の枯死木で年輪解析や着葉量の推定,毎木調査を行った.枯死木帯で生存する個体と枯死した個体から得た年輪の解析からは,葉の減少にともなう肥大成長の低下が起こり,中央値で約0.2 mmという極めて狭い年輪幅になって枯死することがわかった.さらに,枯死木の年輪解析からは,顕著な年輪幅の減少が起きた後に,年輪幅が0.5 ㎜を下回るような肥大成長が停滞した状態(停滞期間)が1年から11年ほど続いて枯死することがわかった.こうした傾向は,斜面斜度の緩いサイト1と急なサイト2で異なっていた.サイト1では2013年・2014年にかけて肥大成長の低下が観察され,多くの個体がその5年以内に枯死した.2013年・2014年は林内の健全木でも肥大成長が低下しており,こうした気象イベントが林縁部の個体の衰退・枯死に強く影響したと考えられる.また,この高い枯死率は枯死木帯の移動速度にも影響しており,枯死木の林縁からの位置と年輪から求めた枯死年の関係から1年間に約1.1 mの速度で枯死木帯が移動すると推定された.一方で,サイト2では,長期にわたって鈍い肥大成長を続けていた劣勢個体が多く,衰退する前から葉の量が少なかったこれらの劣勢個体が枯死木帯で早期に枯死する傾向が確認された.しかし,これらの個体ではサイト1のような2013年・2014年での顕著な肥大成長の低下は確認できなかった.また枯死木帯の移動速度は0.5 m/年であり,サイト1よりもゆっくりと枯死が進行していた.こうしたサイト1とサイト2の傾向の違いは斜面斜度の違いによる風の受け方の違いに起因していると考えられる.


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