| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


第14回 日本生態学会大島賞/The 14th Oshima Award

森林生態系の地下部における炭素動態の研究
Studies on below-ground carbon dynamics in forest ecosystems

大橋 瑞江(兵庫県立大学)
Mizue Ohashi(University of Hyogo)

 森林は陸域で最も生物多様性が高い生態系であり、それによって様々な公益的機能を発揮して人間社会に貢献している。これらの公益的機能の発揮メカニズムには、森林生態系特有の物質循環が深く関わっている。森林の物質循環は、地上部だけでなく目に見えない森林地下部でも生じており、土壌動物・微生物、樹木の根系などの生物活動が様々な物質の動態を駆動して養分供給や炭素の貯留といった機能を生んでいる。しかしながら地上部に比べて、地下部における物質循環過程の理解は浅く、森林の公益的機能の発現メカニズムは未だ不明な部分が多い。そこで私は、森林地下部の物質循環でも炭素循環を中心に、地下部の炭素動態とそれをもたらす生物活動に関する研究に長年、携わってきた。本講演では、マレーシア熱帯多雨林、日本の暖温帯林、フィンランド北方林、の3つのフィールドで実施してきた研究成果を紹介したい。
 土壌呼吸は地表から放出するCO2ガスを指す。このCO2は、根の呼吸や土壌微生物の分解などに起因し、森林では生態系呼吸量の最大9割を土壌呼吸が占めると見積もられている。地球全体の炭素循環において、土壌呼吸で生じる炭素フラックスは、人間活動由来の炭素フラックスよりもはるかに多く、土壌呼吸のわずかな増減が大気と陸域の炭素バランスを崩して気候変動を加速することが懸念されている。また森林土壌には落葉落枝や枯死根に由来する大量の有機炭素が蓄積しており、大気からの炭素隔離に貢献しているが、土壌呼吸の増減はこのような土壌の炭素プールのサイズを規定する重要な要因でもある。そこで私は、土壌呼吸の変動パターンとその制御要因の解明に取り組み、熱帯多雨林特有のホットスポット現象の発見や、土壌呼吸と温度や水分などの環境要因との関りを明らかにしてきた。さらに土壌呼吸を生み出す生物活動として、土壌動物や樹木根系の役割に着目し、アリやシロアリの造巣活動と物質循環との関連、根の成長や枯死がもたらす炭素の動態について、研究手法の開発を含めた一連の研究に取り組んできた。近年は関連の研究者らとの研究ネットワークを構築することで、データ取得が困難な地下部情報の拡大を図り、個人研究の限界を超えた知見の獲得を目指している。


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