| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-425  (Poster presentation)

高山植物ナガバキタアザミが海岸で生育できる環境とは
Why can Saussurea riederi (Compositae), an alpine plant, grow on the coast?

*松田美鈴(東京農業大学 農学部), 宮本太(東京農業大学 農学部), 高岸慧(東京農業大学 農学部), 小俣考範(猿払村教育委員会)
*Misuzu MATSUDA(Tokyo Univ. Agri. Dep. Agri), Futoshi MIYAMOTO(Tokyo Univ. Agri. Dep. Agri), Kei TAKAGISHI(Tokyo Univ. Agri. Dep. Agri), Takanori OMATA(Sarufutsu Vlg. Boe.)

キク科トウヒレン属のナガバキタアザミSaussurea riederi Herder は本州(早池峰山)および北海道に分布する多年生植物である。本種の生育は主に高山帯であるが、北海道沿岸部に発達する一部の海浜植生帯にも本種の生育が報告されている。本研究は国内最北に位置しガンコウラン、コケモモなどの高山性植物が生育するエサヌカ海浜植生帯において本種の生態的特性を明らかにすることを目的とした。
ナガバキタアザミの季節消長は4月に出芽・根出葉展葉、5月から7月に花茎伸長・花茎葉展葉、8月開花、9月結実、10月以降地上部萎凋を確認した。花茎を持たない根出葉シュートは8月に萎凋した。越冬芽は地表より0.4±0.4cm 深に横走する根茎先端部に確認した。海岸地形は汀線から内陸部に複数の砂丘地形が発達しており、汀線側からハマニンニク、ハマナス、オクヤマザサの3群落が区分された。その中で本種はオクヤマザサ群落に生育し、同群落内の汀線側に開花個体群、内陸側に未開花個体群が確認された。調査地の積雪期の風向は海側からの風が多く、調査区内の積雪高と冬季地表面温度は、本種の未生育域であるハマニンニク群落とハマナス群落、開花個体群域のオクヤマザサ群落汀線側、未開花個体群域の内陸側の順に有意に高くなった。また光環境は未生育域と開花個体群が未開花個体群と比較して有意に明るかった。積雪高が上がるに従いオクヤマザサの植生高が高くなり、優占度が上昇し光環境が暗くなった。また本種の根出葉の比葉面積(葉面積/乾燥重量)とオクヤマザサの優占度に正の相関が認められた。
ナガバキタアザミが生育するオクヤマザサ群落内は積雪による断熱効果があり、本種の越冬環境が維持されていた。しかし積雪高が高くなるに従い開花が抑制される光環境になった。そのような未開花個体群の葉は形態を変化させることにより、光環境に対応していた。このことから本種の生育は海浜地形と積雪により維持されていることが明らかとなった。


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