| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-209  (Poster presentation)

外来生物の動態:不均一な環境でのミクロとマクロの現象【B】
Dynamics of introduced population: micro and macro phenomena in complex environment【B】

*小池文人, Thiri AUNG(横浜国立大学)
*Fumito KOIKE, Thiri AUNG(Yokohama National Univ.)

ヒトを宿主とする寄生者で外来生物であるSARS-COV2による新型コロナウイルス感染症COVID-19の動態における空間構造の重要性を検証した.マクロな現象として都道府県間の感染者の移動をSIR個体群動態モデルに重力モデルによる距離依存の交流を加えて空間明示的な解析を行ったところ,都道府県間の感染者の移動が検出されたのは最初の拡大が起きた第一波の2020年3月を中心とする期間と,最初の緊急事態宣言が解除され第2波が始まる5月下旬から6月上旬,オミクロン株による第6波が始まる2021年12月上旬から2022年1月上旬であった.生態特性が異なる変異株を含めて未分布地域に新たに分布拡大する場面では移動が重要であり,このような期間には移動の抑制が有効と考えられる.また第2波の直前には国内の局所的根絶が可能であった可能性がある.都道府県内にも都市歓楽街などの高密度地や,家庭,寮,老人施設のような局所的に高密度の場所が存在する.このようなミクロ構造は空間明示的な取り扱いが難しいため,個体の感染しやすさ(脆弱性,個体周囲の局所密度のほか個人の特性も含む)の頻度分布を対数正規分布と仮定して空間明示的でない解析を行った.脆弱な部分ではすでに感染が起きたと考えて都道府県ごとにパラメーターを推定したところ脆弱性の頻度分布の平均値は都道府県人口の影響を受け,東京都は右(高い脆弱性)に長い尾を引いた.都道府県人口が多いと局所的に高い人口密度が形成され(r=0.86),脆弱性が高い局所個体群が形成されると考えられる.多くの県で類似した脆弱性に多くの人口を持つが,地方の県であっても居住者の多くは県庁所在地などの都市近郊に多い.このような構造が存在すると感染拡大初期(高脆弱性者のみ感染)に推定されたパラメーターを用いた単純なSIRモデルで予想されるより低い感受性者密度で感染拡大が飽和する可能性がある.


日本生態学会