| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-08  (Oral presentation)

長期的な生息地変化と生物多様性トレンドの統合:日本の沿岸性水鳥の事例
Integration of long-term habitat changes and biodiversity trends: an example form coastal waterbirds in Japan

*清水孟彦(北海道大学), 先崎理之(北海道大学), 深谷肇一(国立環境研究所), 天野達也(クイーンズランド大学), 角谷拓(国立環境研究所), 守屋年史(バードリサーチ), 上平健太郎(京都大学)
*Takehiko SHIMIZU(Hokkaido University), Masayuki SENZAKI(Hokkaido University), Keiichi FUKAYA(NIES), Tatsuya AMANO(The University of Queensland), Taku KADOYA(NIES), Toshifumi MORIYA(Bird Research), Kentaro UEHIRA(Kyoto University)

 生物多様性の保全目標や解決策の策定や実施には、生物多様性の喪失の駆動要因の一つである土地利用変化の影響を定量的に調べることが不可欠である。先行研究は、森林等の単一の土地利用様式に焦点を当てていたが、移動能力の高い生物の生息地は複数の土地利用様式にまたがることが多いため、その保全には多様な土地利用変化を考慮する必要がある。そこで、本研究では、人為的な改変が進んでいる沿岸湿地を利用し、近年個体数減少が著しい水鳥を対象に、多様な土地利用様式の分類に基づいて複数タイプの生息地の面積およびその変化が水鳥の種数・個体数やその変化率に与える影響を定量化することを目的とした。環境省モニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査の全国157サイトとその周辺において、衛星画像を用いた土地利用分類から湿地生息地、陸域生息地、非生息地の1984~2022年までの面積変化を調べた。また、このうちの125サイトでは、1999~2022年までの計43,458回にわたる61種の水鳥観察データを用いて、水鳥の種数・個体数と湿地・陸域生息地の面積、およびそれぞれの変化の関係を統計モデルで調べた。衛星画像解析の結果、湿地・陸域生息地面積は共に10~15%減少した一方で、非生息地面積は増加していた。水鳥の種数・個体数は、採食地として主に機能する湿地生息地や春期の陸域生息地面積が大きいサイトほど有意に多かった。しかし、水鳥の種数・個体数の年変化率と湿地・陸域生息地の変化面積の間には有意な関係は見られなかった。これらのことから、沿岸湿地に限らず採食地環境の保護が長期的な水鳥保全にとって重要な可能性が高いが、サイトごとの水鳥群集の動態を駆動する要因の解明にはさらなる検討が必要である。今回実装した衛星画像による長期的な複数タイプの生息環境評価は、広域への展開が可能であり、その利点を生かして検証地点を増やすことで、駆動要因に関する新たな知見が得られる可能性がある。


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