| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-00 (Oral presentation)
水産資源学の領域では、「生活史初期に速い成長を示す個体が選択的に生き残る」という成長–生残パラダイムが広く受け入れられてきた。しかし、近年のレビュー研究では、検証事例の約56%でのみこのパラダイムが支持されることが報告されており、必ずしも一貫して成り立つわけではないことが示された。したがって、その成立条件や背後にあるメカニズムを改めて検討することが求められている。
成長–生残パラダイムの背景には「成長速度の相対的順位は生活史を通じて維持される」という考え方がある。本研究では、「成長速度の相対的順位は必ずしも生活史を通じて維持されない可能性がある」という視点から、まず①「生活史初期の成長速度と成魚体長の関係」を、マサバ野生成魚の耳石輪紋解析により検証した。その結果、仔魚期の成長速度と成魚体長との間に強い負の関係が認められ、初期に速く成長した個体ほど成魚期に小型である傾向があることが示唆された。次に、②「生活史初期の成長傾向がその後のどの段階まで維持されるのか」を明らかにするため、受精卵から131日齢まで一定水温・飽食条件下でマサバを飼育し、複数時点で耳石に蛍光標識を施す実験を行った。仔魚期、稚魚前期、稚魚後期、幼魚期の成長履歴を耳石の蛍光標識間の幅から復元したところ、仔魚期と稚魚期の成長速度は正相関を示した一方で、仔魚期と幼魚期の成長速度には有意な負の関係が認められた。すなわち、初期の成長傾向は幼魚期に大きく変化する可能性が示された。
以上の結果は、マサバにおいて幼魚期以降に初期高成長個体と初期低成長個体のサイズ順位が逆転することを示唆する。これは、生活史初期の成長傾向が幼魚期以降に大きく変化する可能性を示しており、成長速度の相対的順位の一貫性という成長–生残パラダイムの前提条件には再検討の余地があると考えられる。