| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-07  (Oral presentation)

アジアにおける絶滅危惧猛禽類の比較ゲノミクス
Comparative genomics of endangered Asian raptor species

*内藤アンネグレート 素(京都市動物園, ARRCN), 千葉夕佳(ノスリ・ウォッチ), 洪孝宇(國立屏東科技大學), 孫元勳(國立屏東科技大學), 井上剛彦(ARRCN), 山﨑亨(ARRCN)
*Annegret Moto NAITO(Kyoto City Zoo, ARRCN), Yuka CHIBA(Buzzard Watch), Shiao-Yu HONG(NPUST), Yuan-Hsun SUN(NPUST), Takehiko INOUE(ARRCN), Toru YAMAZAKI(ARRCN)

猛禽類は多くの生態系において上位捕食者として重要な役割を担っているが、生息環境の劣化等の理由で絶滅の危機に瀕している種が多い。特にアジアは世界で最も猛禽類の多様性が高い地域であると同時に、絶滅危惧種の割合も高い。このような種の絶滅リスクを評価するうえで、個体数や分布だけでなく、遺伝学的な知見も重要である。特に、個体数の少ない集団や、IUCNや各国のレッドリストにおける絶滅危機の度合いが高い種・亜種では、遺伝的多様性の減少や近親交配の進行が危惧されている。アジアの猛禽類では、このような研究が不足しており、正確な絶滅リスク評価が困難な種が多い。本研究では、主に東アジア(特に日本を中心)に生息するタカ科のNisaetusAquilaButeoButastur属の種のゲノム解析を実施した。複数個体のデータがある種についてはまず遺伝的な集団構造を明らかにし、各集団のヘテロ接合度、ホモ接合領域の数・長さ・割合、近交係数、有効集団サイズの変遷を推定した。別属の種間、同属の種間、および同種の集団間において結果を比較した結果、遺伝的多様性・近交係数は必ずしも個体数や保全状況と比例しなかった。別種間(特に別属間)では生活史や進化史が大きく異なるため、これは妥当な結果であると考えられる。一方、個体数と絶滅危機の度合いが類似している同種の亜種間で遺伝的多様性や近交係数が異なる結果も得られた。これらについて、有効集団サイズの変遷の結果や地理学的な背景を考慮したところ、数万年前の集団の状態が現代の遺伝的な特徴に影響を与えている可能性が示唆された。すでに絶滅が危惧されている種ではこのような進化史を含めた解析は当然ながら重要であるが、今回の結果を受け、一見絶滅リスクが相対的に低そうな集団でも、過去の有効集団サイズなどの解析を行い、遺伝的な健全性を評価する必要があると言える。


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