| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-13  (Oral presentation)

生態毒性試験は個体群レベルでの化学物質リスクを捉えているのか
Can ecotoxicological tests capture population-level chemical risks?

*都築洋一(東京大学), 横溝裕行(国立環境研究所)
*Yoichi TSUZUKI(Univ. of Tokyo), Hiroyuki YOKOMIZO(NIES)

化学物質が自然界に与える影響を適切に評価して規制するために、国際的に標準化された「生態毒性試験」が広く利用されている。生態毒性試験は、生物に化学物質を曝露して生存率や産子数等の変化を調べるリスク評価手法であり、対象とする生物種や測定項目が異なる多様な実験プロトコルが存在する。現行の試験の多くは、対象種の生活史のうち特定の生育段階のみを曝露の対象としているため、個体群動態の予測に必要な一生涯の生存・繁殖データが得られない。そのため化学物質が野生生物の個体数減少を引き起こすリスクの評価が難しいという課題がある。本研究では、経済協力開発機構(OECD)が定める化学品テストガイドラインを対象に、現行の試験において得られる部分的な生活史情報が個体数減少につながるような毒性影響をどの程度捉えられているのかを評価した。まず試験対象種の全生活史段階の生存率・産子数を文献から調べ、各生活史段階の生存率・産子数に対する個体群成長率の弾性度を求めた。次に、試験で測定されるパラメータについて弾性度の総和をとることで、測定対象のパラメータが化学物質曝露により変動した場合に個体群成長率にどの程度影響が波及するかを0から1の範囲で相対的に示す「個体群レベルの有効性」を定義して求めた。その結果、ほとんどの試験で個体群レベルの有効性は0.4未満であり、測定されていない生活史段階の方が個体群動態に強く影響することが示された。特に陸生無脊椎動物を対象とした試験は有効性が低く、現行の試験では個体群レベルのリスクを十分捉えられない可能性が判明した。一方で、魚類や鳥類を対象とした試験法では、個々の試験法の有効性は低くても、生活史の異なる部分を測定している複数の試験法の結果を相補的に組み合わせることで有効性が向上する傾向が見られた。本研究の成果は、今後の試験法改訂や新しい評価手法の開発に寄与することが期待される。


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