| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) M01-12 (Oral presentation)
カンボジアの季節性熱帯落葉林に生育する Terminalia alata(シクンシ科)には、同所的に、形質の異なる二型が存在する。二型は葉面の軟毛の有無(有毛型・無毛型)で区別されるほか展葉時期が顕著に異なり、有毛型が他樹種と同様に落葉直後の最乾季に展葉するのに対し、無毛型は雨季の半ばに展葉する特異的な展葉フェノロジーを示す。生育立地も異なり、有毛型は平坦部、無毛型は乾燥立地である丘陵部に出現する。このような複合的形質異型は、環境異質性に対する適応戦略と考えられる。
この形質異型の生物学的背景には、(1)表現的可塑性、(2)生態的種分化の初期段階、(3)異所的分化系統の二次接触の3つの仮説が想定される。そこで本研究では、T. alataの形態異型の遺伝的背景を検討するため、RAD-seqにより、異型間におけるゲノムワイドな遺伝的分化パターンを解析した。
PCAでは二型は第1主成分(PC1)に沿って明瞭に分離し、遺伝的中間型は検出されなかった。AMOVAおよびRDAでも形態型間に有意な分化が認められ、形態差が遺伝的差異を伴うことが示された。一方、ADMIXTURE解析では最適K=1と推定され、異なる系統の混合を示す構造は検出されなかった。さらに、Bayescan、OutFLANK、pcadaptによるoutlier解析では一貫した候補座位は検出されなかった。また、二型の分離にはPC1に強く寄与する座位群が主に関与していたが、分化が特定の少数座位に集中する傾向は認められなかった。
以上の結果から、T. alataの形態異型が同所環境における生態的分化の初期段階にあることが支持され、その分化様式はポリジェニックな適応過程である可能性が示唆された。