| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) M01-13  (Oral presentation)

熱帯昆虫多様性は本当に危機にあるのか?タイ南部の長期観測から探る
Are Tropical Insects Really in Decline? Insights from Long-Term Monitoring in Southern Thailand

*中村彰宏(西双版納熱帯植物園), Jeratthitikul JERATTHITIKUL(Mahidol University), Alyssa B. STEWART(Mahidol University), Natapot WARRIT(Chulalongkorn University), Yves BASSET(STRI)
*Akihiro NAKAMURA(XTBG, CAS), Jeratthitikul JERATTHITIKUL(Mahidol University), Alyssa B. STEWART(Mahidol University), Natapot WARRIT(Chulalongkorn University), Yves BASSET(STRI)

昆虫は真核生物多様性の主要な構成要素であり、森林生態系の維持と回復に不可欠な役割を担っている。しかし、世界的な昆虫減少が懸念される中、熱帯、とくに東南アジアの昆虫多様性は十分に解明されていない。生物多様性の回復には、信頼性の高いベースラインデータの確立が急務である。
この重要な研究上の空白を補うため、私たちは気候変動および人為的攪乱の進行下における熱帯林昆虫群集の動態を解明することを目的として、長期かつ地域横断的なモニタリングプラットフォームの構築を進めている。本プロジェクトは、分類学的・系統学的・機能的視点を統合し、中国西南部、タイ、ラオスの研究拠点が連携する枠組みのもとで実施されている。本発表では、特にタイ南部における取り組みを中心に、アリ類、ガ類、甲虫類、膜翅目昆虫など主要な昆虫群の時空間動態を記録する研究成果を紹介する。
予備的な結果は、人為的撹乱の増大に伴い、個体群および群集構造の変化を正確に把握するための標準化されたモニタリング手法の必要性を強く示している。しかし、従来の調査は手作業による分別や形態同定に大きく依存しており、膨大な労力と時間を要するという課題がある。そこで本研究では、DNAメタバーコーディング技術と、カメラ検出システムを含む機械学習に基づく自動化モニタリング手法を組み合わせることで、効率的かつ拡張性の高い昆虫多様性評価を実現し、熱帯林における昆虫モニタリングの革新を目指している。
昆虫の分類学的多様性、生物地理学的パターン、および生態学的機能に対する理解を深化させることは、地球規模で進行する人間活動の影響を緩和するための保全戦略の策定と実施において不可欠である。革新的かつ長期的な参照データセットの構築は、熱帯森林における極めて多様な昆虫群集の持続的な管理と回復に向けた重要な基盤となる。


日本生態学会