| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-021 (Poster presentation)
アオサ藻綱(Ulvophyceae)には配偶子の単為発生能力をもつ種が多く存在するが、その生態学的意義は未解明である。同綱のエゾヒトエグサ(Monostroma angicava)は、冬季には巨視的な配偶体として繁茂し、夏季には微視的な胞子体として、海中の砂に含まれる炭酸カルシウム粒に穿孔して生息する。配偶体から放出された配偶子は接合により複相の胞子体へと発生するが、未接合のまま残ったものは、雌雄ともに単為発生により単相の胞子体へ発生する。しかし、単為発生を行う場合には理論的に性比に偏りが生じる可能性がある。特に異型配偶を行う本種では、雌雄の単為発生の期待値が等しいとは考えにくく、野外で頻繁に単為発生を行う場合、集団の性比は偏ると考えられる。本研究では、野外で単為発生が行われているかを検証するため、室蘭・ボトフリナイ浜で採取した砂試料から胞子体を単離し、接合由来と雌雄それぞれの単為発生由来のゲノムの違いに基づいて設計した性マーカーにより、各胞子体の発生由来を判別した。さらに、野外で単為発生が頻繁に起こることを想定した場合の単為発生胞子体の割合を推定し、実測値と比較した。また、野外配偶体および接合由来胞子体から得られた次世代配偶体の性比を調べることで、野外における性比の偏りの有無と、有性生殖過程における性比調整の有無を検討した。実験の結果、単為発生由来胞子体は推定値より有意に少なかった。また、野外配偶体、次世代配偶体ともにその性比はおおむね1:1であった。以上より、野外環境において単為発生は積極的には行われていない可能性が示唆された。一方で、配偶子の単為発生は、未接合の配偶子が正の走光性を示しながら数日間泳ぎ続けることから、親のいた場所から分散して発生することで、予測できない環境変動による絶滅のリスク回避に寄与する可能性が考えられる。