| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-024  (Poster presentation)

大型草食獣による常緑低木ヒメアオキの食害部位の季節・年変動とその影響【A】
Seasonal and Annual Variation in Browsed Parts of Evergreen Shrub Aucuba japonica by Large Herbivores and Their Ecological Consequences【A】

*川口慶士, 古川優依, 津軽祉己, 北村俊平(石川県立大学)
*Keito KAWAGUCHI, Yui FURUKAWA, Shiki TSUGARU, Shumpei KITAMURA(Ishikawa Prefectural Univ.)

大型草食動物による採食は、植物の成長や更新に大きな影響を与える。石川県林業試験場では、2020年度以降にニホンジカ(以下、シカ)の撮影頻度が増加し、それに伴いヒメアオキへの食害が顕在化した。本研究では、大型草食動物(カモシカとシカ)が常緑低木ヒメアオキに及ぼす食害の実態を比較し、その影響要因を植物の質(物理的防御)と量(みかけの利用可能性)の視点から解明することを目的とした。自動撮影カメラを用いた食害動物調査(2023年11月~2026年1月)と、個体識別による食害枝の追跡調査(2023年・2024年の夏から秋)を行った。また被食要因の解明のため、ヒメアオキおよび同所的に生育する常緑樹(エゾユズリハ、ヒサカキ、シロダモ、ヤブツバキ)の葉形質(厚さ・硬さ・乾燥物質含量・葉面積比重)を測定した。あわせて、積雪に伴う植物体の露出状況および、積雪時の足跡追跡による被食状況を調査した。調査の結果、カモシカは通年出現し、春に花序、夏~秋に未熟な果実、冬に新芽や当年枝を採食した。一方、シカは冬季に集中して出現し、当年枝や1年枝の葉を採食した。全食害イベント(62回)に占めるシカの割合は51%だったが、当年枝食害に限定すると75%に達し、前年に食害された枝の76%が枯死した。葉形質では、ヒメアオキは他種と比較して突出した物理的防御を持たず、中間的な値を示した。また、種内での食害の有無による形質差も認められなかった。一方で、積雪時には他種が埋没する中でヒメアオキが高い露出度を示し、足跡追跡では高い食害率(75%、N=215)が確認された。以上のことから、シカによる食害は、植物の質(防御形質)の選択によるものではなく、積雪環境下での利用可能性(量)の増大と、本来防御が不十分なヒメアオキへの集中採食によるものと考えられた。シカの食害は光合成器官を奪い枯死を招くため、今後シカの増加に伴い、ヒメアオキの個体群維持に深刻な影響を与える可能性が高い。


日本生態学会