| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-029 (Poster presentation)
性淘汰によって進化した巨大な武器は同種内の競争に用いられるが、維持、生産に高いコストを伴うため生存コストが繁殖利益を上回る環境ではその発達が抑制されることが知られている。しかし、近縁種が同所的に分布する場合、武器への選択圧は単なる「抑制」に留まらず、対抗種に応じた「形状の特化」を促すのではないか。本研究では、温度条件により大顎形状が「フジ型」と「エゾ型」に分化するミヤマクワガタに着目した。ライバル種であるノコギリクワガタとの相互作用がこの二型性を維持するという「進化的じゃんけん構造」仮説を立て、その検証に向けた分布・形態・行動の解析を行った。公開されている出現記録と気候環境データに基づき、種分布モデルを構築して両種の潜在的な適地の重複を推定した。また多数の雄個体画像から大顎の内歯形状を精密に計測し、生息地の気温条件との相関を解析した。最後に異種間闘争を確実に観察するための誘発条件を検討すべく、絶食期間(1〜6日)が闘争発生率に及ぼす影響を調査した。適地推定の結果、両種の生息適地は中温域で広範に重複することが示された。形態解析では、気温の上昇に伴い特定の内歯が伸長し、別の内歯が短縮するというトレードオフが認められた。行動実験の結果、戦闘発生率は絶食期間の延長とともに上昇し、活力と闘争意欲を両立する「絶食4日間」が、闘争を誘発する最適な条件であることが特定された。本研究により、ミヤマクワガタは分布域の温度に応じて武器の投資部位を変化させていることが示唆された。これは対ノコギリクワガタに特化した「フジ型」と、同種内競争に特化した「エゾ型」の適応戦略を反映している可能性がある。本研究で確立された闘争誘発プロトコルは、今後の型ごとの優劣実証において不可欠な基盤となる。今後はこの手法を用い、種間・種内の競争がどのように武器の多様性を維持しているのかを明らかにしたい。