| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-032 (Poster presentation)
動物は微小生息環境に適応するために適応放散を繰り返してきた。トカゲ類では、走行時の体の安定性を維持するため、生息環境における底質の複雑性・傾斜の程度に対応した四肢形態を進化させることが報告されている。例えば、構造が複雑で不安定な底質に生息する種では、四肢が短くなる一方、木の幹など垂直な底質を利用する場合は、大腿部と脛部の長さが等しくなるような進化パターンを示す。さらにヤモリ類の一部のグループでは、基質面への接着を可能とする趾下薄板を獲得したことによって安定性が確保されたことから、四肢形態への依存度が下がり、それゆえトカゲ類全般でみられるような四肢形態パターンに関わる適応上の制約から解放されている可能性がある。そこで本研究では、共にヤモリ属であり、構造がより複雑な岩場を利用する傾向が強いニシヤモリと、構造が単純な人家の壁面を利用する傾向が強いニホンヤモリを用いて、接着力の定量化による安定性評価と形態比較を行った。
その結果、より複雑な構造の底質を利用するニシヤモリのほうがニホンヤモリよりも体サイズ補正した趾下薄板の接着力が小さかった。また、利用している底質構造の複雑さは明らかな種間差を示すにも関わらず、両種ともに自身の体重を十分支えることのできる程度の接着力を示し、高い安定性維持機能が示唆された。体サイズを考慮して四肢形態を解析した結果、ニシヤモリはニホンヤモリと比べて前肢と後肢がともに長い傾向にある一方で、大腿部と脛部の長さの比率には種間差が認められなかった。以上の結果から、趾下薄板による強力な安定性の獲得を通じて、不安定な底質を利用するにも関わらずニシヤモリで前肢の長さが長くなるといったような、運動に関わる形態形質の一部での制約の解放が生じたことが示唆された。発表では、走行時の推進力など安定性以外の機能にも着目して、趾下薄板がもたらす四肢形態の適応パターンについて考察する。