| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-041 (Poster presentation)
小規模で孤立した生物集団では遺伝的多様性の低下や有害遺伝子の蓄積によって集団の絶滅が加速されると理論的に考えられてきた。この予測に反し、小集団での長期間存続例の報告が増えつつあるが、存続に寄与する形質やその進化機構は十分にわかっていない。そうした形質の中でも、生物の寿命やそれと関連する生活史戦略は自然選択の方向性や強さ、ひいてはゲノム進化動態に大きな影響を及ぼす。中でも寿命が小集団化における絶滅のしやすさや遺伝的多様性とどのような関係にあるかはほとんどわかっていない。ホトケドジョウ属には湿地帯等の止水環境を主たる生息地とするホトケドジョウ等に加え、河川最上流部の細流へ進出し長寿命化したナガレホトケドジョウ・トウカイナガレホトケドジョウ・レイホクナガレホトケドジョウの3種が知られる。本研究では小集団ながら長期存続する機構を検証するため、本属における寿命や生活史戦略と関係する自然選択およびその帰結としてのゲノム景観を調べた。そのためホトケドジョウおよび遺伝的に大きく分化した二系統のナガレホトケドジョウ計約100個体について耳石輪紋に基づく年齢査定を行い、齢構造と成長特性を比較した。また全ゲノムシーケンスデータを用いて塩基多様度分布と自然選択の痕跡を解析した。その結果、ナガレホトケドジョウは17歳以上の個体が見られるなどホトケドジョウの倍以上の寿命と低成長型の生活史を示し、複数年級群を含む齢構造が確認された。ゲノム解析ではホモ過多な領域が極めて多く、近親交配が著しく進行していた。また、集団全体の塩基多様度のゲノム平均も低いものの、免疫関連遺伝子を含む領域では局所的に多様性が維持され、平衡選択が検出された。以上の結果は、長寿命によって経験する変動環境での生存に重要な機能遺伝子の多様性が、ストレージ効果による平衡選択によって維持されることが、小集団存続に重要であることを示唆する。