| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-088  (Poster presentation)

ハネナシコオロギにおける婚姻給餌の機能を探る
Exploring the function of nuptial feeding in the mute cricket Goniogryllus sexspinosus

*久我立(広島市森林公園昆虫館)
*Tatsuru KUGA(Hiroshima City Insectarium)

交尾の最中、あるいはその前後に、オスがメスに餌を与える場合がある。婚姻給餌と呼ばれるこの現象は、バッタ目の昆虫で広く知られている。中でもコオロギ上科にはオスが分泌腺から分泌物を放出し、メスがそれを舐める種が複数存在する。分泌腺は多くの種で胸部の背面にみられ、分泌物を舐める行動にはメスを交尾のための位置に保持する効果や、メスが精包を除去するまでの時間を延ばして精子を多く輸送し、父性を高める効果、メスの繁殖力を高める効果などがある。一方で、いくつかの種では腹部の背面に分泌腺が確認されているが、腹部からの分泌物を舐める行動の機能は十分に調べられていない。演者は無翅のコオロギであるハネナシコオロギGoniogryllus sexspinosusにおいて、メスが交尾の前後にオスの腹部背面を舐める様子を観察した。そこで、ハネナシコオロギにおける腹部からの分泌物の機能を探ることを目的に、未交尾のオスとメスを同じ容器に入れ、婚姻給餌の様子を観察した。
 観察した12ペアの内、11ペアで交尾が確認された。いずれのペアでも、交尾の前後に婚姻給餌を確認できた。交尾前の給餌では、メスがオスの腹部を舐めている途中で、オスがメスの下に潜り込み、交尾に移っていた。ハネナシコオロギではメスがオスの背に乗る体勢で交尾を行うため、交尾前の給餌には交尾しやすい位置にメスを保持する効果があると考えられる。交尾後の給餌では、精包の除去につながる行動(後脚で精包を蹴ったり、体を曲げて口で精包を外そうとしたり、精包を落下したりする行動)が給餌中には観察されなかった。また、精包の除去につながる行動を開始するのが遅いペアでは、それまでに給餌を行っていた時間が長い傾向がみられた。これらは交尾後の給餌によって精包の除去が遅れ、父性が高まる可能性を示していた。なお、給餌の時間と産卵数の間に正の相関関係は見られず、婚姻給餌がメスの繁殖力を高める効果は認められなかった。


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