| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-092  (Poster presentation)

大規模なホタテガイ放流が海底の生物多様性に与える影響
Impact of large-scale scallop seeding on benthic biodiversity

*三好晃治(道総研中央水産試験場), 平尾真也(道総研網走水産試験場), 山﨑千登勢(道総研網走水産試験場)
*Koji MIYOSHI(HRO Central Fish. Res. Inst.), Shinya HIRAO(HRO Abashiri Fish. Res. Inst.), Chitose YAMAZAKI(HRO Abashiri Fish. Res. Inst.)

 北海道オホーツク海沿岸~根室海峡の放流ホタテガイ漁業では、桁網による海底耕耘と年間約30億個体の稚貝放流が約2,000 km²にわたり実施されている。この操業サイクルは底生群集に対する大規模な人為攪乱であるが、群集の空間的多様性への影響は十分に評価されていない。本研究では、3海域15調査ライン(2021〜2025年)で撮影された5万枚以上の海底画像からホタテガイを含む底生生物17分類群を同定し、α(局所)・β(空間)・γ(地域)の各スケールで多様度応答を定量して攪乱応答のスケール依存性を検証した。
 局所的なα多様度(Simpson指数、ホタテガイ除外)は操業直後に大幅に低下し(最大65%減)、その後1年以内にベースライン水準まで回復した。一方、空間的β多様度(Jaccard非類似度およびBray-Curtis非類似度)は操業前後で有意な低下を示さず、ライン間の種組成の空間的差異は維持された。群集組成(Bray-Curtis非類似度)に対するPERMANOVAでは、海域・時点およびその交互作用が組成変動の54%を説明し(p=0.001)、攪乱応答が海域ごとに異なることが示された。群集データからホタテガイを除外したNMDS上の環境適合度解析によると、水深が群集組成の最大の規定要因であり(p=0.001)、空間的な組成差異が環境勾配によって維持されていることが確認された。またα多様度の規定要因分析では、ホタテガイの割合を説明変数としたモデルが最も適合しており(ΔAIC=169)、局所的な多様度低下がホタテガイ優占度と強く連動することが示された。  
 これらの結果は、操業に伴う攪乱が局所的な均等度を一時的に崩壊させる一方、水深・底質の空間的不均一性による環境フィルタリングがライン間の組成差異を維持し、γ多様度の完全な崩壊を防ぐことが示唆された。大規模人為攪乱下における群集のレジリエンスがスケール依存的であることが示された。


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