| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-093  (Poster presentation)

タンガニイカ湖産鱗食魚の形態的左右差における表現型可塑性
Phenotypic plasticity in the asymmetry of scale-eating cichlid fish in Lake Tanganyika

*竹内勇一, 南部美千瑠, 南舘琉(北海道大学)
*Yuichi TAKEUCHI, Michiru NANBU, Ryu MINAMIDATE(Hokkaido University)

表現型可塑性、すなわち環境条件に応じて形質が変化する現象は、捕食者と被食者の相互作用や種分化と密接に関連している。タンガニイカ湖に棲息するPerissodus microlepis(鱗食魚)は、捕食行動と口部形態において顕著な左右差を示す。最近、鱗食魚の下顎骨の左右差は鱗食経験によって拡大するという表現型可塑性の寄与が示された。それでは、摂食経験を操作することで左右差が拡大にも縮小にも変化するのだろうか?この仮説を検証するため、我々は、異なる摂食経験下においた鱗食魚の捕食行動と下顎骨の変化を調べた。ここで使用した鱗食魚は、固形飼料のみで4ヶ月間飼育し、その後3つの採餌条件で8ヶ月間飼育した。具体的には、「鱗食未経験群」として粉状飼料のみを8ヶ月間与えた魚、「鱗食継続群」として餌魚1匹を毎日10分間捕食させる給餌を8ヶ月間行った魚、「粉餌戻し群」として同様に餌魚1匹を4ヶ月間与えた後に粉状飼料を4ヶ月与えた魚を作成した。
10分間における襲撃回数は、実験開始5日頃から大幅に増加し、実験50日頃には約180回に達した。粉餌戻し群の捕食回数は、平均70回で維持された。12ヶ月齢で下顎骨の幾何学的形態分析を行った結果、鱗食継続群と粉餌戻し群は鱗食未経験群と比較して、形状が有意に異なっていた。鱗食を行うと歯骨の前後軸、および左右の顎の接合部が伸長していた。一方で、鱗食継続群と粉餌戻し群には、有意な違いは見られなかった。さらに、下顎骨の高さ(歯骨上端から後関節骨下端まで)の左右差を3群間で比較すると、鱗食継続群は鱗食未経験群と粉餌戻し群よりも左右差が有意に大きく、粉餌戻し群は鱗食未経験群と同程度であった。
以上から、鱗食経験は下顎骨全体においては不可逆的に形状を変化させるが、下顎骨の高さについては鱗食から粉餌に戻すことによって可逆的に左右差が減じることが明らかとなった。鱗食魚の形態的左右差は継続的な鱗食経験によってもたらされると示唆される。


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