| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-099  (Poster presentation)

自然環境下における円口類ヌタウナギの成長率算出の試み
Growth of the inshore hagfish under natural conditions

*山口陽子(島根大学)
*Yoko YAMAGUCHI(Shimane Univ.)

ヌタウナギ類は主として深海に棲息する海洋スカベンジャーである。先行研究では「ミミズのように大量にいる」と称され、海洋物質循環に不可欠な役割を果たすヌタウナギ類だが、その生理・生態はほとんどわかっていない。ヌタウナギ類は大卵小産型で、胚発生に1年以上かかるため、著しく繁殖効率が低い。それでも個体数を維持できる理由として、寿命が長いことが示唆されていた。しかし、ヌタウナギ類は耳石、鱗や脊椎骨といった硬組織を欠くため、従来の年齢推定法は適用できない。この点について、発表者は日本近海に分布する種(Eptatretus burgeri)をモデルとして1年半にわたる長期飼育実験を実施し、相対成長データから本種の成長曲線を導出することに成功した。成長曲線からは、本種の寿命が50年を超える可能性が示された。現在は自然環境下における成長率を推定するため、島根県隠岐郡隠岐の島の加茂湾をフィールドとして、2025年から5カ年計画で月例調査を実施している。2025年は蛍光エラストマーを用いて272個体を個別に標識し、うち6個体を再捕獲することに成功した。得られたデータを上記の成長曲線と比較した結果、野生個体の成長率は推定値とよく一致していた。さらに研究の過程で、本種の行動に関する予期せぬデータが得られた。本種はヌタウナギ類としては例外的に浅海に分布し、8月から10月にかけて深海に移動して繁殖活動を行う。本研究では7月に標識・放流した3個体が11月に再捕獲され、うち2個体が期間中に産卵していたことがわかった。このデータは本種の繁殖回遊における浅海域へのsite fidelityを示唆するものであり、ヌタウナギ類としては世界初の報告となる。今後はさらにデータを蓄積し、野生個体の成長率ならびにsite fidelityに関する検証を進める。


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