| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-108 (Poster presentation)
千葉県はマダニ媒介感染症である日本紅斑熱(JSF)の流行地であり、その発生地域は房総半島南部を中心に拡大傾向にある。演者らは以前、千葉県内のJSF患者発生数と野生動物の分布との関連を解析し、ニホンジカ(以下、シカ)の密度増加と分布拡大が、JSF患者発生リスクの増大と空間的拡大を予測する因子であることを示唆した。しかし、シカの分布拡大がどのマダニ種の分布や密度に影響を与えているといった生態学的メカニズムは未解明であった。そこで、本発表では、追跡調査による千葉県におけるマダニ類の長期的な分布変化の推定、野外調査による宿主動物密度と各マダニ種の密度との相関分析、北海道でのシカの在不在を操作した野外実験の結果を統合し、JSF患者発生地域拡大の要因を考察する。千葉県で追跡調査により、マダニ類の分布域を約30年前と比較した結果、過去に未確認であった地域で、ツノチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニの新たに生息が確認された。これらのマダニ種はシカの分布が拡大した方向と一致していた。また、県内29地点の野外調査の結果、JSFのベクター種として疑われているツノチマダニとフタトゲチマダニ、さらにオオトゲチマダニの密度は、シカ密度と有意な正の相関を示した。特にツノチマダニとシカ密度の正の相関は本研究で初めて確認された。対照的に、キチマダニの密度はシカ密度と正の相関を示さなかった。北海道での野外操作実験では、シカの存在がリケッチア保有マダニの密度を高めていた。これらの結果から、千葉県におけるJSF発生地域の拡大は、シカの分布拡大に伴い、シカを好適な宿主とする特定のマダニ種が新たな地域へ侵入・定着し、それらのマダニ種の個体群内でリケッチアを保有するマダニ個体数が増加したことによるかもしれない。また、感染リスク低減対策を検討するためには、まずシカなどの野生動物の個体数管理や分布拡大が感染リスクへ及ぼす影響の実態把握を様々な地域で展開する必要がある。