| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-110 (Poster presentation)
本研究は、大学基盤教育科目において、身近な生物を題材とした簡易型コンセンサス会議の実践を通じ、学生が環境問題における社会的ジレンマとしてどのような論点を認識したかを分析したものである。講義は全8回で構成され、第2回から第5回にかけて「ホテイアオイ(外来植物)」「アライグマ(外来動物)」「奈良のシカ(獣害・文化)」「地域猫(愛護・生活被害)」の4テーマを取り上げた。各回ではステークホルダーの役割を演じるロールプレイを行い、合意形成に向けた討議を実施した。分析にあたり、第6回のふり返りで学生が記述した「各テーマにおいて認識したジレンマ」を対象とし、記述内容を「生態系」「動物福祉」「農業経済」「生活環境」等のカテゴリに分類して出現傾向を比較した。その結果、植物・動物を問わず経済的損失や生活被害への言及が最も多く、動物を扱うテーマでは「動物福祉」の視点がこれと強く対立する構造が見られた。一方で、「生態系」をジレンマの主要な対立軸として認識した記述は、外来種問題を含めても相対的に少なかった。しかし、講義の事前・事後に行われた自由記述のテキストマイニング結果では「自然」「環境」などを起点として生態系保全へ繋がる文脈の記述が頻出しており、学生は生態系保全の必要性を知識としては十分に認識していることが示唆された。以上のことから、具体的な利害調整を伴う合意形成の場面においては、目前の経済的損益や個別の個体を意識した生命尊重の視点が優先され、生態系保全の視点は総論としては賛成だが各論では後景化する傾向が明らかとなった。今後は、生態系保全の視点が単なる背景知識に留まらず、合意形成の対象となりうるジレンマの構成要素として認識されるための方策を検討する。