| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-001  (Poster presentation)

ユスリカに寄生するシヘンチュウの宿主操作【S】
Host Manipulation by Mermithid Nematodes Parasitizing Chironomid【S】

*當銘由薫, 高下日花里, 吉賀豊司(佐賀大学)
*Yoshinobu TOME, Hikari TAKASHITA, Toyoshi YOSHIGA(Saga Univ.)

寄生生物の中には、宿主の行動や形態を改変することで自身の生活史を有利に進める種が存在し、この現象は宿主操作として知られている。シヘンチュウ類(線形動物門)は昆虫などの無脊椎動物に広く寄生する線虫であり、宿主を水辺へ誘導する行動操作や、オス宿主の形態をメス様に変化させた「中間性」個体を生じさせる形態操作が報告されている。しかし、その基礎生態や宿主操作の実態については未解明な点が多い。本研究では、ヒシモンユスリカChironomus flaviplumusに寄生するシヘンチュウを対象として、その基礎生態を明らかにするとともに、行動操作の実態を野外条件下で検証することを目的とした。まず、佐賀県白石町の湧水域において寄生率調査を行った結果、ユスリカ幼虫におけるシヘンチュウの寄生率は冬季から春季にかけて高く、夏季・秋季には著しく低下する明瞭な季節変動を示した。さらに、rDNA ITS領域に基づくPCRおよび分子系統解析の結果、調査地には少なくとも3種のシヘンチュウが同所的に存在し、季節によって優占する系統が入れ替わっていることが明らかとなった。次に、行動操作を検証するため、偏光トラップ調査を実施した結果、シヘンチュウに寄生されたユスリカ成虫が多数捕獲された。特に通常は水辺への定位性が低いと考えられるオス成虫や、触角がメス様に変化した中間性個体が高頻度で確認された。性別ごとの寄生率では中間性個体で最も高い値を示し、シヘンチュウ寄生との強い関連が示唆された。これらの結果は、シヘンチュウが宿主の形態や感覚機能に影響を与え、水面由来の偏光に対する応答を介して水辺への誘導を行っている可能性を示すものであり、シヘンチュウにおいて初めて野外条件下での形態・行動操作を示した重要な知見である。


日本生態学会