| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-010 (Poster presentation)
都市の緑地は、ストレス回復や環境ストレッサーの低減など多面的な経路を通じて人々の健康に好影響をもたらす。近年、緑地と健康の関係を「人がどの程度緑に接しているか」という曝露量から定量的に分析する枠組みが整いつつある。この枠組みは「受動的グリーン曝露」と「能動的グリーン曝露」に大別されるが、前者は居住地周辺に存在する緑地量等、静的な指標による評価が主流であり、個人の日常的な移動に伴う動的な緑地接触の実態を十分に捉えきれないという課題があった。本研究は、受動的グリーン曝露の枠組みの中で、通勤やレジャー等、人の定期的な移動を考慮して緑地曝露量とメンタルヘルスの関連を評価することを目的とした。対象地は国内の政令指定都市および中核市計76都市とした。緑地の指標として、市全体の森林面積、人流データを用いて検出した平日に人が滞在している場所の森林面積、休日に人が滞在している場所の森林面積を設定した。メンタルヘルスの指標として、厚生労働省の統計から得られた精神科外来患者数を用いた。三つの緑地量指標と、精神科外来患者数との関係について、一般化線形モデルを用いて検討した。分析の結果、市全体の森林面積は患者数に対して正の相関を示した。一方で、平日および休日の滞在場所における森林面積は、いずれも患者数に対して負の相関を示した。この結果は、市全体としての総森林面積が大きくても、それが人々の生活圏から離れていればメンタルヘルスへの恩恵は限定的であることを示唆している。すなわち、メンタルヘルスの維持・向上に寄与するのは市全体の緑の総量ではなく、人々が日々の生活の中で日常的に接触・享受できる生活圏における身近な緑であると考えられた。