| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-012  (Poster presentation)

生物多様性と結びついた自然体験は“経験の消失”の危機にさらされている【S】
High vulnerability of children's wildlife-oriented outdoor activities to urbanization and digital media use【S】

*青田雄太郎(東京大学), 土屋一彬(国立環境研究所), 遠藤伸太郎(千葉工業大学), 曽我昌史(東京大学)
*Yutaro AOTA(Tokyo Univ.), Kazuaki TSUCHIYA(NIES), Shintaro ENDO(Chiba Inst. of Technology), Masashi SOGA(Tokyo Univ.)

現在、世界中で自然体験などの自然との直接的な関わりが失われる「経験の消失」が深刻化している。経験の消失は、特に子供に与える影響が懸念されており、身体的・心理的な健康や発達、保全行動に与える負の影響が報告されている。子供の経験の消失の主な原因は、都市化とデジタルメディアの普及であると考えられてきたが、都市化やデジタルメディアの普及の自然体験への影響は自然体験の種類によって変化しうる。この問いは、経験の消失に対処する上でどの体験を増やすべきかなど重要な知見を提供するがこれまで検証されてこなかった。そこで本研究では、野生動物と関わる自然体験とそうでない体験を区別し、それらの自然体験頻度に都市化とデジタルメディアの利用が与える影響を検証した。
 国立青少年教育振興機構が2016年に全国の小学生から高校生までを対象に実施したアンケート調査のデータを利用した。このアンケートでは(1)6種類の自然体験の頻度、(2)デジタルメディアの使用習慣、(3)年齢と性別を聞き取った。また、土地利用分析を行い生徒が所属している学校の周辺の緑地面積を計算し、都市化度合いの尺度として用いた。解析は順序ロジスティック回帰を用いて、異なる自然体験に都市化やデジタルメディアの利用が与える影響を調べた。
 結果、野生動物と関わる自然体験は一貫して都市環境で減少傾向にあることがわかった。このことは都市化に対して野生動物と関わる体験が特に脆弱であることを示している。一方、昆虫採集や野鳥はデジタルメディアの利用とも負に関連していたが、釣りや他の一般的な自然体験(キャンプや海水浴など)はデジタルメディアの利用と正に関連していた。これらの結果は、都市化やデジタルメディアが自然体験の種類によって異なる影響があることを示しつつ、子供の経験の消失にアプローチする上で、野生動物と関わる体験を増やす自然体験プログラムなどの重要性を示唆している。


日本生態学会