| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-015 (Poster presentation)
モンゴルの草原地帯では、伝統的な遊牧生活とモウコガゼルなどの野生草食獣の世界有数の大移動が共存している。放牧されているヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ、ラクダといった家畜と野生草食獣が利用する空間に物理的な障壁は存在しないため、複数種の家畜と野生草食獣が空間と食物資源を共有している。しかし、近年の家畜頭数が増加しており、自然植生の劣化や資源をめぐる競合が懸念されている。そこで、従来の動物生態学的研究に社会科学や獣医学の専門家を加えた体制による、遊牧社会と野生草食獣の持続的共存に向けた、学際的・国際的研究を開始した。この研究では、野生動物の生息地選択への家畜や人間活動の影響評価だけでなく、遊牧民の放牧地やゲル(移動式住居)の設営地の選択条件や、野生動物への意識などの社会科学的調査も研究項目に含んでいる。そこで、野生草食獣が家畜や人が多い地域を避けるのか、それとも利用地域の重複が大きいのかを明らかにすることを目的とし、野生草食獣と家畜およびゲルの空間分布を調査した。調査は2025年の9–10月に、モンゴルの中部の村間をつなぐ未舗装道路沿いの両側約3 kmの範囲を対象に、11ルート(平均距離:約53.1 km)で実施した。距離標本法で推定した個体数密度は、全家畜合計では44.4±7.8頭/km(平均±SE)であり、種別ではヒツジ・ヤギ(同時に多数が放牧され、遠方からの種判別は困難なためまとめて集計)が最大(35.5±7.0頭/km)だった。また、ルートを細分化した解析により、ゲルと家畜の草原内での空間分布の偏りを定量化できた。これに対し、モウコガゼルの発見は5回のみ(計240頭、0.1±0.08頭/km)だった。本調査だけでのモウコガゼルの空間分布評価は難しいが、モウコガゼルの衛星追跡データ等を加えた解析を進めることによる、家畜とモウコガゼルの空間利用実態の解明が期待される。