| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-050  (Poster presentation)

ライチョウの温度応答に基づくメカニスティックニッチモデルによる将来分布予測の検討【A】【E】
Assessing Future Distribution of the Rock Ptarmigan(Lagopus muta) Using a Mechanistic Niche Model Based on Thermal Responses【A】【E】

*渡部紬(東北大学), Jamie M. KASS(Tohoku Univ.), 小林篤(長野県環境保全研究所), 飯島大智(筑波大学)
*Tsumugi WATANABE(Tohoku Univ.), Jamie M. KASS(Tohoku Univ.), Atsushi KOBAYASHI(NECRI), Daichi IIJIMA(Univ. of Tsukuba)

 ライチョウ(Lagopus muta)は高緯度地域や高山帯という寒冷な環境に適応した鳥類であり、日本国内には日本アルプスの亜高山帯上部から高山帯を利用する固有亜種(L. muta japonica)が生息している。環境省レッドリストにおいて絶滅危惧種IB類(EN)かつ国の特別天然記念物にも指定されており、保全の重要度が高い。そのため、日本アルプスのライチョウ集団について生息環境の制約要因と適地の将来変化を推測することは、他分布域に生息する同種及び近縁種が将来的に直面する課題に対する保全策の策定にも資する。先行研究では、保全上重要な生息パッチの特定を目的として、主にマクロスケールの気候データを用いて構築した種分布モデル(SDM)により生息分布の推定が行われてきた。一方で、積雪量、傾斜に基づく日射度指標や地表面の起伏は、ライチョウの生息に強く関連することが示唆されているにもかかわらず組み込まれてこなかった。そこで本研究では、GBIFの在データを用い、本州中部山岳域を背景範囲として、既存の生物気候変数に加え、地形起伏度、斜面方位や傾斜に基づく日射度指標、積雪量といった地形環境変数を統合した SDM を構築し、生息適地の予測がどのように変化するかを評価した。その結果、日射度指標と積雪量はどちらも概ね負の応答を示し、特に積雪量が多いほどSDM上で適地確率が減少することが示唆された。将来気候条件下への外挿では、生息適地は全体的に縮小した一方で、北アルプスを中心とした高標高域では相対的に高い適性が維持される結果となった。しかし、これらの結果はあくまで分布予測モデルに基づくもので、ライチョウの生理的制約や行動可能性は考慮していない。今後は、ライチョウの野外行動記録を実測し、高温条件下における行動確率の変化を定量化する。微環境条件も用いて、各地点において活動可能時間割合を推定し、行動可能性に基づく分布評価を行う。その研究枠組みと今後の展望について発表する。


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