| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-052  (Poster presentation)

北海道および青森県西部に分布するエゾノウワミズザクラの集団遺伝学的解析【A】
Population genetic analysis of Padus avium (Rosaceae) distributed in Hokkaido and western Aomori Prefecture【A】

*神先直弥(東北大学), 香川裕之(東北緑化), 菅野洋(仙台ECO), 陶山佳久(東北大学)
*Naoya KANZAKI(Tohoku Univ.), Hiroyuki KAGAWA(Tohoku Ryokka Kankyohozen), Hiroshi KANNO(Sendai Eco & Animals College), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.)

野生生物の中には、種全体として絶滅のおそれがあるいわゆる“絶滅危惧種”のほかに、分布隔離や生育状況の悪化により、特定の地域で絶滅が危惧される種がある。このような地域レベルでの希少種は、種全体としての絶滅危惧種に比べて保全上の優先度が低く見積もられがちである。しかし、そうした地域内希少集団の消失は、種全体の遺伝的多様性だけでなく、地域生態系にとっても損失となりうる。本研究で対象とするエゾノウワミズザクラ(Padus avium)は、北海道では広い範囲に分布する一方、青森県では2か所の限られた範囲にのみ分布する地域内希少種である。しかし、青森集団の遺伝的多様性や固有性は調べられていない。そこで本研究では、本種青森集団の保全遺伝学的な評価を行い、適切な保全策の根拠とすることを目的とした。材料として、青森県の全分布地から54サンプル、北海道の12地点から56サンプルを採取した。これらからDNAを抽出し、MIG-seq法により取得したゲノムワイドSNPを用いてクローン解析および集団遺伝学的解析を行った。その結果、青森集団では遺伝的な個体数がわずか21個体である一方、遺伝的多様性は北海道集団と同程度であることが明らかとなった。また、青森と北海道では明瞭な遺伝的分化が認められ、約2万世代前に分岐したと推定された。以上の結果から、青森集団は遺伝的固有性が認められる地域系統であり、顕著な遺伝的劣化の兆候は認められないと考えられた。しかし、過去に形成された多様性がかろうじて維持されている可能性が高く、個体数が少ない状態が継続した場合、多様性の低下が進行すると考えられる。したがって、本種青森集団の保全対策としては、域内の生育環境を整えることや、域外でのジェネットの保存に加え、地域内個体間での交配による増殖などが有効だと考えられた。また、本研究で用いた集団遺伝学的アプローチは、他の地域内希少種の保全への応用も期待される。


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