| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-055  (Poster presentation)

植生に配慮したため池防災工事の実証と草原性希少種の保全効果【A】
Demonstration of Vegetation-Friendly Flood Control Works for Farm Ponds and Their Conservation Effects on Grassland Rare Species【A】

*市野祥子(筑波大学山岳科学セ), 寺嶋悠人(筑波大学山岳科学セ), 入江瑞生(筑波大学山岳科学セ), 冨高まほろ(筑波大学山岳科学セ), 土井結渚(筑波大学山岳科学セ), 鈴木暁久(筑波大学山岳科学セ), 滝澤一水(筑波大学山岳科学セ, アイティテラ(株)), 田中健太(筑波大学山岳科学セ)
*Sachiko ICHINO(University of Tsukuba MSC), Yuto TERASHIMA(University of Tsukuba MSC), Mizuki IRIE(University of Tsukuba MSC), Mahoro TOMITAKA(University of Tsukuba MSC), Yuina DOI(University of Tsukuba MSC), Akihisa SUZUKI(University of Tsukuba MSC), Issui TAKIZAWA(University of Tsukuba MSC, IT-Tera  Co.,Ltd.), Kenta TANAKA(University of Tsukuba MSC)

 草原は多様な希少種を支える重要な生態系であり、人為的攪乱によって維持されてきた二次的自然である。しかし、日本では土地利用の変化や管理の中断により、20世紀初頭には国土面積の約10%を占めていた草原が、2010年頃には約1%まで激減した。農業ため池の堤体は、定期的な草刈り管理によって維持されてきた身近な草原環境であり、地域に残る草原性植物の重要な生育地となっている。しかし、東日本大震災や西日本豪雨を契機としてため池の防災工事が全国的に進められ、堤体の掘削に伴う既存植生や埋土種子の損失により、希少な草原性植物への影響が懸念されている。
 既存植生への影響を低減する工法を採用できれば、防災機能の向上と生物多様性保全の両立が可能となる。本研究では、農業ため池堤体の防災工事における植生配慮工法として、工事前に表土および希少植物を保管し、工事後に再配置する「表土戻し」および希少植物移植の効果を検証した。
長野県上田市塩田平に分布する11か所の農業ため池を対象とした。7か所のため池において堤体工事後2023年~2024年に表土戻しを実施した。また、同時期に6か所のため池で希少種の移植を行った。2024年および2025年の6月~9月に11か所全てのため池で植生調査を実施し、群集構造、多様度、種組成を評価するとともに、移植個体の生残状況を追跡調査した。
 その結果、表土戻し実施池では未実施池と比較して、植物種数が12.8%、希少種数が53.3%、草原性希少種数が97.2%高かった。また、多くの実施池で工事1~2年後にShannon–Wiener多様度指数の上昇が確認された。これらの結果から、表土戻しの実施は工事後1~2年でため池堤体草原の植物種多様性の増加に寄与することが示された。さらに、移植した希少植物種の平均約61%が定着していた。
 以上より、表土戻しは、防災工事後のため池堤体で、短期的には植生多様性や草原性植物相の回復に有効な手法であることが示唆された。


日本生態学会