| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-058 (Poster presentation)
イワナは冷水性魚類であり,分布の南限域では近年の水温上昇や河川横断構造物による生息地分断により,個体群の小集団化が進行している。こうした小集団化は,遺伝的多様性の低下や個体数変動の確率性を通じて絶滅リスクを高めることが指摘されている。 ゴギは中国山地に生息するイワナの亜種であり、キリクチとともにイワナ属の世界最南限の個体群の一つである。その希少性から一部の生息地は広島県の天然記念物に指定され,絶滅危惧種(VU)に分類されている。 そこで我々は,江の川の支流である西城川源流域において,ゴギの個体群特性を解明するため18の調査地点を設定し,2022年より野外調査を行っている。そのうち,人工的に隔離された個体群(区間長470m)において,捕獲したゴギ175個体のうち19個体(約11%)にエラ蓋欠損や背びれ湾曲といった奇形が確認された。野生動物において高頻度で奇形が出現する例は極めて稀である。奇形が成長量や生存率を低下させる可能性が指摘されているが,奇形個体自体が稀であるため,実証研究はほとんどない。本研究では,人為的に隔離された小集団のゴギを対象に奇形個体の成長および残存を明らかにすることを目的とした。 調査は2022~2024年の各年10月に実施し,捕獲個体の尾叉長および体重を測定後,個体識別を施して放流した。3年分の再捕データを用い,奇形個体と健常個体の成長量および残存率を比較した。 その結果,尾叉長組成に有意な差は認められなかったものの,奇形個体は健常個体と比較して成長量および残存率が低かった。先行研究では、摂餌形質に関わる奇形が餌捕食時の機能低下を通じて成長率を低下させると示唆されているが、本調査で確認された奇形には摂餌形質の異常は認められなかった。本研究は摂餌形質以外の奇形でも成長低下を引き起こすことを示した実証例であり,奇形個体は成長量低下を反映する重要な指標として役立つかもしれない。