| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-062 (Poster presentation)
ニホンジカの過採食によって下層植生の衰退が深刻化した森林が増加している。本研究では、立木の樹上構造(樹幹や枝)が植物にとってシカの採食から逃れるためのレフュージアとしてどのように機能しているのか、その実態とその保全上の意義を明らかにすることを目的とした。調査は京都大学芦生研究林の巨樹を多く含む老齢林で実施した。防鹿柵の内外の渓畔林にプロットを設置し、胸高直径が30~189cmの宿主樹木81本を対象として、樹上・地上の植生を調査した。
地上では柵外で出現種数が著しく少なかった。一方、樹上では柵内外でシャノン多様度指数が同程度で種多様性が維持されていた。nMDSによる群集組成の比較でも、地上は柵内外で明確に分化したが、樹上は両区で部分的に重複していた。これらの結果は、柵外でも、樹上ではシカ害が顕在化する以前の多様性および種組成が一定程度維持されていることを示唆している。
シカ嗜好性種に着目して樹上の垂直分布を解析した結果、柵外の嗜好性種は採食圏内(2.0m以下)にも残存するが、その密度は柵内より低く、相対的に高所で分布が多い傾向を示した。成熟個体の出現確率を目的変数としたGLMの結果、着生高および柵の有無が正の効果を示した。柵外の採食圏内では成熟個体の出現確率が低下していたが、10m以上では柵内と同等以上の水準に達していた。
また、柵外で地上に出現せず樹上にのみ残存したシカ嗜好性種の約9割は風散布、あるいは鳥類を介した動物散布であった。さらに、シカ嗜好性種の個体数および種数はいずれも宿主樹木の胸高直径の増加にともない増加した。
以上より、巨樹が形成する樹上構造は、地上から消失した植物を垂直方向に保持するレフュージアとして機能し、将来の植生回復を支える種子供給源となりうることが示唆された。これらの結果は、シカ害によって攪乱された森林下層植生の再生能力を維持する上で、巨樹の保全が重要であることを示している。