| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-063 (Poster presentation)
一般に、小さな島では生息可能な種数や個体数に限界があり、多くの餌資源を必要とする上位捕食者は生存が難しい。西表島と石垣島に生息する固有亜種カンムリワシ(Spilornis cheela perplexus)は、こうした条件下に生息する留鳥の中型猛禽類である。本研究では全ゲノム情報を用い、カンムリワシの歴史的な個体群動態、島間の分化、遺伝的多様性および近親交配の度合いを解析し、将来的な個体群存続の可能性を検討した。
石垣島9個体と西表島8個体に加え、台湾の亜種(S. c. hoya)1個体、シムルエ島(インドネシア)の亜種(S. c. abbotti)1個体の全ゲノムから一塩基多型(SNP)を抽出し、Variant call format(VCF)およびSNP頻度スペクトル(SFS)を作成した。これらを用いてPCAとADMIXTUREによる国内の2島間の集団構造解析、SMC++とfastsimcoal2による個体群動態推定を行い、さらにゲノム中のヘテロ接合率と連続したホモ接合部位(ROH)の割合を算出した。
その結果、西表島と石垣島の個体群間で、島が地理的に分断された後の約2,043(95%CI[1,619, 2,863])年前に生じたと推定される低度の遺伝的分化が検出された。石垣島では数百年前に強いボトルネックが生じ、現在の有効集団サイズ(Ne)は西表島が石垣島の約2.8倍と推定された。さらにS. c. perplexusは、他の亜種(S. c. hoya、S. c. abbotti)よりも遺伝的多様性が低く、長いROHが多く見られた。S. c. perplexusの中でも石垣島個体群では、この傾向が西表島個体群よりも有意に強かった(p = 6.4×10⁻⁴, p = 8.2×10⁻⁵)。海水面上昇に伴う地理的な隔離が遺伝的な分化を生じ、1771年の大規模な津波が石垣島のNeの減少に影響したと考えられる。現在まで続く石垣島での低いNe値の背景には、開発による生息適地縮小の影響も示唆された。以上から、カンムリワシ個体群の存続のためには生息地の地理的、歴史的制約は免れないが、開発などの人為的要因を排除する必要性が示された。