| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-067 (Poster presentation)
アジアゾウ(Elephas maximus)は国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧種に指定されている。長寿である本種において、正確な年齢推定は個体群管理や保全戦略の立案に不可欠である。しかし、従来の形態に基づく推定は主観的で精度にも限界がある。近年、加齢のバイオマーカーとしてDNAメチル化が注目されているが、糞などの非侵襲試料への応用例は限られている。本研究では、糞由来DNAを用いた年齢推定の可能性を、低コストなMS-HRM(Methylation-Sensitive High-Resolution-Melting)法により検証した。候補領域の選定には、RRBS(Reduced Representation Bisulphite Sequencing)による網羅的解析を用いた。RRBSは、制限酵素消化によりCpG高密度領域を選択的に回収し、バイサルファイト処理後に次世代シーケンスを行うことで、ゲノム全体のCpG部位におけるメチル化率を高解像度で定量する手法である。この解析により、年齢と強く相関するCpGを含む3遺伝子領域(CACNB2, MACROD1, MRGPRF)を抽出した。既知年齢0.09~61歳の糞サンプル(n = 63)で検証した結果、3領域すべてにおいてDNAメチル化率と実年齢との有意な相関が認められた(CACNB2: r = 0.58, p < 0.001; MACROD1: r = −0.62, p < 0.001; MRGPRF: r = −0.61, p < 0.001)。これらのメチル化データを総合し、サポートベクター回帰を用いて一個体抜き交差検証(Leave-one-individual-out cross-validation)を行い、年齢推定モデルを構築した(平均絶対値誤差 = 9.31歳, R² = 0.60, p < 0.001)。この誤差はゾウの寿命の11.64 %に相当し、糞由来DNAを用いたアジアゾウの年齢推定は一定の精度で実施可能であることが示された。本研究は、野生個体群に適用可能な非侵襲的年齢推定法の確立に向けた重要な第一歩である。今後は実用化を目指して、サンプル数および解析領域を増やし、予測精度と信頼性の向上を図る。