| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-070 (Poster presentation)
日本の里山景観における農業用ため池は、農業用水の確保だけではなく、希少種の隠れ家として生物多様性保全に重要な役割を果たしている。しかし近年、農業従事者の高齢化や後継者不足によってため池を含む農地の耕作放棄が増加しており、豊かな生物多様性が失われる危機にある。小型サンショウウオ類は里山環境を象徴する保全上重要な分類群のひとつであるが、耕作放棄が小型サンショウウオ類の生息にどのような影響を与えるのかは十分に明らかではない。従来のモニタリング調査は、主に目視調査や採捕調査が中心に行われてきた。しかしこれらの調査は生態系に影響を与えるだけではなく、時に保全したい個体を傷つけてしまう場合がある。そこで本研究では、⾮侵襲的、⾮破壊的な生物モニタリング手法である環境DNA分析(eDNA)を用いて、耕作放棄がセトウチサンショウウオ(Hynobius setouchi)の生息に及ぼす影響を推定することを目的とした。11箇所のため池を2年間にわたり毎月1回調査し、本種のeDNA分析と水質パラメータの測定を行った。eDNA分析の結果、全てのため池で本種のeDNAが検出された。一方で一部のため池では、幼生の孵化と成長が進む春から初夏にかけてはDNAが検出されたものの、幼生が変態、上陸する前の7月頃には検出されない地点も確認された。本種の分布を規定する環境要因を解明するための統計解析より、溶存酸素濃度が低下すると本種のDNA検出率が下がることが示された。このことから、孵化後の幼生が成長する過程で酸素不足により生残できなかった可能性がある。したがって、耕作放棄による周辺環境の山林化が、溶存酸素濃度の低下を引き起こし、本種の生息に悪影響を及ぼす可能性が示唆された。以上の結果を踏まえ、本発表では、耕作放棄が本種の生息へ与える影響及び保全管理について議論する。