| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-073  (Poster presentation)

小笠原固有種アサヒエビネの現存全集団と90年前の博物館標本を対象とした比較遺伝解析【A】
Comparative genetic analysis of all extant populations and a 90-year-old museum specimen of the Ogasawara-endemic orchid Calanthe hattorii【A】

*高谷智響(京都大学), 遠藤千晴(京都大学), 池田博(東京大学), 井鷺裕司(京都大学)
*Tomoki TAKAYA(Kyoto University), Chiharu ENDO(Kyoto University), hiroshi IKEDA(The University of Tokyo), Yuji ISAGI(Kyoto University)

特異な生態系を育む海洋島の小笠原諸島には、多くの固有絶滅危惧種が生育しており、正確な分布域の把握や遺伝学的情報の整備が保全上の重要課題となっている。現在、父島と兄島のみに生育が確認されているラン科絶滅危惧植物アサヒエビネは、1970年代の乱獲によって個体数が激減し、適切な保全策を講じることが急務であるが、これまで本種の保全管理単位は十分検討されていない。加えて、現在生育が確認されていない母島で1920~1930年代に採集された博物館標本が存在していることから、標本の厳密な種同定を通した分布情報の再整理が必要と思われた。そこで本研究では、過去の標本を含めた現存するアサヒエビネと思われるサンプルをほぼ網羅的に対象として、分布域の変遷を再検証するとともに、適切な保全管理単位を検討する遺伝学的情報を得ることを目的とした。まず、母島産のアサヒエビネとされてきた5つの博物館標本において、葉緑体DNAにおけるycf1領域の解読を行った。その結果、解読に成功した2つのサンプルはいずれもアサヒエビネではないことを示すSNPを有し、うち1つはホシツルランと同定された。ホシツルランは1983年に初記載された種であり、標本は記載以前の採集であったことから、アサヒエビネとして誤同定されたものと考えられる。次に、父島と兄島の現存全個体群において葉組織からDNAを抽出し、MIG-seq法によるSNP解析を行った。その結果、父島内において遺伝的に異なる2つの集団が存在していることが明らかとなり、それらを独立した保全単位として扱う必要性が示唆された。以上の結果は、遺伝学的解析により小笠原におけるアサヒエビネの分布史の再定義をするものであり、アサヒエビネを父島・兄島固有種、ホシツルランを母島固有種として位置づけた、既存の両種の保全管理単位の設定に根拠を与えるものである。


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