| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-079 (Poster presentation)
気候変動対策が生物多様性を毀損する事例が増え、世界的に大きな問題となっており、 気候と生物多様性を両立させるネクサスアプローチへの移行が強く求められている。農業分野では、水田から排出されるメタンが強い温室効果を持つが、栽培中に一時的に水田の水を抜くと(日本では、中干し)メタン排出が減少する。現在中干しが炭素クレジットとして認証され、中干しの期間 を延長する事業が全国で急拡大している。しかし、水田は絶滅危惧種を含む水生昆虫の重要な生息地であり、中干しによる生息地の損失はこれら生物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。実験圃場での中干しを模した処理により、水生昆虫の多様性が減少することが明らかになっているが、実際の農地での影響評価はされていない。 本研究は、中干しが水生昆虫群集に与える影響と、その負の影響を緩和する措置(一時的な避難場所となる人工湿地)の有効性を検証することを目的とした。千葉県・埼玉県・東京都の営農水田14圃場を対象に、生物多様性の影響評価にBACIデザインを用いてサンプリング調査を行った。中干し前後の水生昆虫群集の変化を定量化するとともに、水田脇に小型のコンテナを用いた小型人工湿地を設置し、避難場所としての機能を検証した。その結果、中干しの実施は水田のすべての生物多様性指標(総個体数、科数、シャノン・ウィーナーの多様度指数)に有意な負の影響を与え、農薬使用などの環境要因と比較しても影響は明確であった。小型人工湿地では、中干し実施中および実施後に生物多様性指標が増加する傾向は認められず、本研究で用いた簡易的な設計では避難場所として十分に機能しなかった。本研究により、中干しが水生昆虫に潜在的な悪影響を及ぼすことが明らかになった。今後は中干しをする期間や時期などの実施条件の違いが生物にもたらす影響評価と、 影響を緩和するためのその他の措置(休耕田ビオトープなど)の検証が求められる。